背が高い、足が長い、細い。典型的なモデルしか使わない下着ブランド ヴィクシーに抗議したファッションショー

Text: Miroku Hina

Photography: ©Lexi Scaffidi

2018.1.16

Share
Tweet

テレビCMや、駅のホームに貼られた広告で微笑むモデルやタレントと目が合い、新年早々、「◯キロ痩せる」などの目標を掲げた人も多いのではないだろうか。

筆者も例に漏れずだが、ふと、いったい何年前から、そんな広告に映る「誰か」のようになろうとしているのかと考える。ネットを開けばダイエットサプリや、美容サロンの広告が目に入る昨今。より「きれい」になる努力を、四六時中、強いられているように感じるのは筆者だけではないだろう。

「XSサイズのモデル」ばかり使う下着ブランドに疑問を投げかけたファッションショー

近年アメリカでは、そうした風潮に疑問を投げかけるボディ・ポジティビティという動きが、広がりを見せている。ファッショモデルのような細さや、ルックスのみを「美しい」とする社会に対し、どんな体型やサイズも、そのままを祝福しようというのがこのムーブメントだ。昨年10月にフィットネスのトレーナーを務める、Alyse Scaffidi(アリス・スカフィディ)さん、 Lexi Scaffidi(レクシー・スカフィディ)さん姉妹が開催した「Anti-Victoria’s Secret Show」(アンチ・ヴィクトリアズシークレット・ショー)も、そのひとつ。

このショーは、アメリカ最大のランジェリーブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」が、毎年盛大に開催するファッションショー「ヴィクトリアズシークレット・ショー」に疑問を投げかけたもの。

毎年、著名アーティストが出演する同ブランドのファションショーは、テレビ放映され、世界的に注目を集めている。美しいランジェリーを身にまとい、ランウェイを闊歩する「エンジェル」と呼ばれるブランドのトップモデルたちは、“世界中の女の子の憧れ”だ。

同ショーでは、これまでモデルのほとんどが白人であることが問題視されてきたが、近年では改善を見せ、昨年のショーでは起用したモデルの半数が黒人、もしくはアジア系やラティーノだった。しかし、写真からもわかるとおり人種こそ広がりを見せ始めたものの、「エンジェル」たちはみな背が高く、足が長く、XSサイズの典型的なモデル体型ばかり。世界的な有名ブランドのショーゆえ、若い世代に与える影響は大きいが、起用されるモデルはとても「リアルな女性像」とはいえない。
 
そこで、スカフィディ姉妹は、自分たちを含め、身近な女性21人をモデルとして起用したアンチ・ヴィクトリアズシークレット・ショーを企画。モデルたちは、自身の家族や、友人からの紹介、SNSの告知から募ったが、プロデューサーのDomenik Cucinoba(ドミニク・クチノバ)さんの協力を経て、アメリカのニュージャージー州で開かれたショーは、本物さながらだ。

※動画が見られない方はこちら

魅力的にランウェイを歩くモデルたちの多様性は、身長や体型だけにとどまらない。ガンや拒食症を克服した人、障害を持つ人、いじめから立ち直った人など、スカフィディ姉妹が選出したモデルたちは、人生経験もさまざまだ。 BGMに乗せてセンターでポーズを決める姿は、まさしくそれぞれの「エンジェル」の魅力に満ちている。

Photo by 撮影者

width="100%"

width="100%"
ショーを企画し、出演したスカフィディ姉妹(左・中)

企画したアリスさんは、ショーの開催にあたって、こう思いを述べていた。

私たちは、ヴィクトリアズ・シークレットのファンだけれど、ショーをみると「背もないし、細くもない」と、自分を見下し始めるの。でも、このショーの参加者から、それぞれが今、ベストな状態にいることを感じたわ。体型や、年齢、体に残る傷だって、唯一無二のもので、それこそが美しい。参加者には、そう自信をもって歩いてほしい。

ショーは、大きな反響を呼び、姉妹は来年の開催も予定しており、ゆくゆくは活動の法人化も目指しているという。

ニューヨークのど真ん中でも開かれた、ボディ・ポジティブなファッションショー

ヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーに対する動きは、さらに広がりを見せ、2017年12月には、ニューヨークのど真ん中、タイムズスクエアで、モデルのKhrystyana(クリスティアーナ)さんが、一般の女性に呼びかけ「#theREALcatwalk」(本物のランウェイ)を決行。身長や体重のみならず、毛の処理の有無、性的指向もさまざまな女性たちが即席のランウェイを闊歩する姿に、多くの人が足を止めた。ボディ・ポジティブ・アクティビスト兼モデルである彼女は、自身のSNSでこう綴っている。

>ヴィクトリアズ・シークレットのショーは、見るたびに「自尊心」が下へ下へと押し下げられていくみたい。このショーでは、ボランティアで参加した女性たちが、たった一つの美の基準を伝えるためにタイムズスクエアを闊歩するの。その基準は、「あなた自身であること」よ。

#theREALcatwalkを呼びかけたクリスティアーナさん

“歪んだ美の基準”に対する「憧れ」に、エネルギーを奪われてないか?

2つのファッションショーは、「エンジェル」が表す「美」の基準がいかに限られたものであるか、世界へ投げかけた。見ている人の自尊心を蝕むこれまでの基準は変わりつつあるのだ。

日本では、どうだろう?筆者自身は、特に10代から20代前半にかけて、体重推移グラフなどをつけては(いつも3日坊主だったが)、目標に到達できない自分は「十分ではない」といった思考に、長いこと消耗されたように思う。残念だが、メディアが美容器具や、サロンへの消費の加速を目的に「こうあるべき」と提示する「美」を追うことで、多くの人が本来、持てる自信を奪われていないだろうか?

width="100%"

昨年末の「第68回 NHK 紅白歌合戦」では、義足のダンサーである大前光市さんが、歌手の平井堅さんの歌とともに、美しい踊りを披露した。体型に限った話ではなく、年齢や、障害、病気も、その人の今ある個性にすぎないのではないだろうか。

2つのファッションショーでランウェイを歩いたモデルたちの、自分を認め、信じる道を進む姿には、誰もが認める魅力があった。

「人と比べる」価値評価を、自分たちのやり方から、外すときがきた。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village