「同情するなら、演劇を教えておくれ」。ホームレスの自尊心を取り戻す「英国ダンボール劇団」

Text: Noemi Minami

Photography: ©Cardboard Citizens

2017.12.4

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「俺たちに価値がある、俺たちは透明人間じゃない、俺たちにも“声”があるって感じさせてくれた」

これは一人のホームレス役者が英国で25年以上続いているホームレス劇団『Cardboard Citizens』について語った言葉だ。“ダンボール市民劇団”と訳されるこの団体は演劇やワークショップ、ホームレスの子どものためのプログラム『ACT NOW』の運営を行い、帰る場所のない人々に居場所を与え続けている。女優ケイト・ウィンスレットやロリー・キニアなど一流俳優たちがアンバサダーを務め、社会のなかで透明となってしまったホームレスの“声”を劇場を超えて人々に届けている。

社会から何らかの理由でこぼれ落ちてしまい、衣食住の確保も精一杯な人々が「本当に必要としているもの」をCardboard Citizensは知っているのかもしれない。

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Photo by Firdausie Taniya Kamal

社会復帰への大きな見えない壁

ホームレスが困難するのは、「服がない」「食べれない」「家がない」という物理的な問題だけではない。社会のなかで人々に対等に扱われず、“透明人間”となり「自尊心が持てない」ことがホームレスの大きな傷となり、彼らの社会復帰を妨げているとCardboard Citizenのメンバーは話す。

ホームレス問題は「家がない」ことだけではありません。人が人生を立て直すためにはインスピレーションが必要なんです。他の人と協力して何かを作り上げる機会が与えられ、そこで自分のベストを行い、美しいものの一部になるという体験が人には必要なときがあるんです。

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Photo by Firdausie Taniya Kamal

劇団が提供する演劇を通して、ホームレスの人々は「学ぶ」ことを体験し、「チームワーク」のスキルを築く。彼らのなかにはこのような経験を一切したことがない人も多いそうだ。一生懸命学び、他人と協力して何かを作り上げる体験を通して彼らのなかには自信が生まれる。

また、劇の内容もホームレスの社会復帰のうえで非常に重要な要素となる。Cardboard Citizenの劇の多くは、劇団員の個人的な体験からストーリーを構築させているのだ。そのプロセスで劇団員たちは過去の傷と向き合い、仲間たちと共有することで前に進める。

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共に働き、助け合い、傷を分かち合った劇団はまるで、家族のような存在となる。そして居場所や仲間、学びやチームワークから得た自信はホームレスだった人々の将来の大きな力となる。

他の人の力になりたい

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メンバーの一人であるリチャードさんは以前は仕事を見つけるは遠い夢で、人を助けるなんて想像することもできなかったそうだ。しかしCardboard Citizenの活動を経て今ではメンタルホスピタルに訪問し自分の体験をシェア、人々の社会復帰の手助けをしている。

薬毒中毒でリハブに入ったり出たりを繰り返していたケリーさんはCardboard Citizenに出会い、演劇に専念。今では、トレーナーとして活躍中。

劇団員の多くは「困っている人を助けたい」と口にしていた。

ホームレスとは多様で複雑で簡単な問題じゃないんだ

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「ホームレスとは多様で複雑で、簡単な問題じゃないんだ」。劇団員の一人はそのことを世間に知って欲しいと言っていた。
 
人々がホームレスに陥るのには、ドラッグ中毒、精神病、家庭内暴力など様々な事情がある。「ホームレスは働きたくないだけで怠惰なんだ」という古い考えをいまだに持つ人がどれくらいいるかはわからないけれど、人をホームレスに陥れる社会の問題は簡単に解決できるものではないことは明らかだろう。それでもCardboard Citizenのように不運だったり、道を踏み外してしまったりする人を暖かく受けいれ、輝く機会を与えてくれる場所があれば、彼らは復帰できる。

Cardboard Citizens

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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