平和のための“ホーム”を渋谷につくる「建てない建築家」|渋谷の拡張家族ハウス「Cift」が描く未来の生き方 #001

Text: Ai Ayah

2018.1.12

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2017年4月28日に渋谷にオープンした複合施設、「SHIBUYA CAST.」。都会のど真ん中にあるこの場所で、血縁にも地縁にもよらない「拡張家族」になることを目的に、共に暮らし、共に働く集団がいる。名前は「Cift(シフト)」。

現在のメンバーは39名。半数以上が起業をしていたり、フリーランスのような形で働いている。ファシリテーター、弁護士、映画監督、美容師、デザイナー、ソーシャルヒッピー、木こり見習いなどなど、全員の肩書きを集めると100以上に。大多数のメンバーがCift以外にも、東京から地方都市、海外まで、様々な場所に拠点を持っていてその数も合わせると100以上になる。メンバーのうち約半数は既婚者で、何人かは離婚経験者。2人のメンバーはパートナーや子どもも一緒にCiftで暮らしている。そうした“家族”も含めると、年齢は0歳から50代にわたる。

バックグラウンドも活動領域もライフスタイルも異なる39人が、なぜ渋谷に集い、なぜ「拡張家族」になることを目指しているのか。

本連載では、CiftのメンバーでありこれまでにBe inspiredで記事の執筆もしてきたアーヤ藍が、多様なメンバーたちにインタビューを重ねながら、新しい時代の「家族」「コミュニティ」「生き方」を探っていく。

第1回目は、Ciftの発起人であり、他の38人のメンバーを集めた人物でもある藤代健介(ふじしろ けんすけ)さん。Ciftは、一般公募はせず、藤代さんが自分の周囲に声がけをし、彼との面談を経て、メンバーが選ばれている。

建築学科を卒業後「場の設計」のコンサルティングをしてきた藤代さんに、彼自身の来歴やCiftへ懸けた思いなどを聞いた。

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Photography: ©︎Cift

Ciftとは?拡張家族とは?

アーヤ:まず初めに、Ciftを知らない人にCiftを一言で説明すると?

藤代:平和活動のための拡張家族。「自分」が拡張して、「あなたもわたし」になれば、平和な状態になると思うんだよね。自分を傷つけたい人ってあまりいないから。

アーヤ:私は自己否定しちゃうことも結構あるな(笑)。けんちゃんは、自己否定したり、悩んだりすることはない?

藤代:僕は自己否定はあまりしないかな。何のために生きているのかとか、そういうことで悩むこともなくなりつつある。「生かされている」っていう感覚が強いからかな。

ここ数年でいろんな出会いがあって、色々な世界観に触れて、科学的にも哲学的にも「自分という存在は自我だけのものではない」っていうことを、頭と心で納得するプロセスを経てきたんだ。最初は好奇心から学び始めたんだけど、学んでいくなかで、結局は自己愛が自分を苦しめるっていうことを納得してきたし。

アーヤ:「家族」という言葉には、何かこだわりはあるの?

藤代:いや、家族っていうのは方便というか…。やりたいことはあくまでも「あなたもわたし」を、深めて広げていくこと。自分自身の拡張。その感覚を日本において分かりやすく伝えるには家族だと思ったんだ。今の時代の血縁家族が「あなたもわたし」かというと、必ずしもそうではないとは思うからこそ新しい家族像を創っていきたいよね。

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それぞれの平和観や家族観を共有するために、定期的に、家族会議や家族対話を開催している
Photography: ©︎Cift

アーヤ:そもそもCiftを立ち上げようと思ったきっかけは?

藤代:去年の夏ぐらいに、デザイナーからアーティストになろうと思ったんだ。相手の課題を解決すること、他者に答えを与えることじゃなくて、自分の問いを他者と共有することをしようって。いろんな背景があって、その思いに至ったんだけど。アートって、心で感じたことを体で表現していくプロセスで、その表現方法が、画家は絵を描くし、ダンサーは踊る。自分にとってはコミュニティを創ることだって思ったんだ。

アーヤ:Ciftの前もコミュニティづくりを結構やっていた?

藤代:自分でゼロからコミュニティを立ち上げたのは二回目かな。コミュニティの立ち上げとかにも関わったし、事務局をやっていたこともあるし。自分たちでお金を集めて、自分たちで運営する、市民的な動きは、大学2年生くらいからずっといろいろやってるね。

あと、3年前には30人くらい集めて、半年限定で「PROTO(プロト)」っていうコミュニティを祐天寺につくってた。そのときはCiftとは逆で、「自分の人生をプロトタイプにしよう」っていうコンセプトだった。「自分の人生をアートにしよう」とも言えるかと思うけど、目的が「自分」で、全体としてどうなるかっていうことは目的にしていなかった。そうするとコミュニティが自然とバラバラになっていって、それを半年ギリギリもたせた感じ。そのときの学びが、「家族になろう、平和を目指そう」っていうCiftの全体を目的にするコンセプトに繋がっているかな。目的が全体であることは、あらゆるコミュニティにおいて一番重要なポイントだと思うよ。

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Photography: ©︎Cift

「建てない建築」から生まれた「神話」がCiftの原点

アーヤ:大学時代は建築学科だったんだよね。どうして建築をやりたかったの?

藤代:色々な縁が重なって偶然入った感じだよ。僕が好きだったのは、建物を作ることじゃなくて、物語をつくることだったから。大学の卒業制作では、神話をつくってたし。

アーヤ:神話!?

藤代:21世紀、仮想空間が発達して、ネットワークが脳みそに拡張して、その拡張された環境が私たちの行動とか思考をすべて変えて、生き方も見直さなくちゃいけなくなる時代、っていう背景設定。ミニマムのベッドルームがあって、その部屋を出ると、同じような部屋が集まってる。廊下には服とかすべてのものが集まっていて、すべてが自分の物であり、かつシェアされてる。メンバー同士がコミュニケーションをとっていて、いろんな組織があるんだけど、それが一個の生命体みたいになる。人はそこをヘモグロビン*1のように行き来しているんだけど、その大きい生命体と一人の人間だったら、生命体の方が圧倒的に拡張されているから、人はどんどんこのヘモグロビンになっていく。結果的にこの生命体が世界中にできていって、繋がって、地球上が一個の村になるっていう神話。

(*1)ヘモグロビンとはヒトを含む全ての脊椎動物や一部のその他の動物の血液中に見られる赤血球の中に存在するタンパク質

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Photography: ©︎Kensuke Fujishiro

アーヤ:その発想がCiftのコンセプトの原点になってるんだね。

藤代:これは学生時代のポートフォリオなんだけど…

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Photography: ©︎Kensuke Fujishiro

藤代:「美術館をつくれ」っていう課題だったんだけど、僕は世界遺産をつくりにいったんだ(笑)。代々木公園のなかに何もない塔を建てる。そこに一人のヒッピーが壁画を描き始める。それがムーブメントになって、みんながハシゴをかけて、天井まで平和の絵を描き続けた…っていうストーリー。他の学生が模型をつくってきているなかで、僕は図面もなく、この詩を朗読したんだ。建築家というより、詩人だよね(笑)。

アーヤ:変態だね(笑)。

藤代:自分の魂に出会って、新しい自分になって帰っていく、「ソーシャルアニマルからトゥルーアニマルへ」っていう壮大なストーリーで語っているし(笑)。これは、要は温泉を作るプロジェクトなんだけど。

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Photography: ©︎Kensuke Fujishiro

藤代:これは、ARを通して、その都市がどれだけエコ活動をしているかが見える展望台。ここの人たちはこれだけエコ活動をやっていますっていうのが見えて、世界ランキングとかも見られるみたいな。思想が先にあって、そこに形を与えるっていう感じだった。

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Photography: ©︎Kensuke Fujishiro

アーヤ:すごい面白い!昔から平和とか哲学が好きだったの?

藤代:いや、そんなことはないよ。1960年代にスーパースタジオっていう「建てない建築家集団」がいて、彼らにすごく影響を受けたのと、大学3年生の時の先生にライゾマティクスの代表の齋藤精一(さいとう せいいち)さんがいたんだけど、彼から「建築は哲学だから」って言われて、ジル・ドゥルーズとかレヴィ・ストロースとか哲学家の思想にふれるようになった。

あと、僕は模型を作るのが不器用ですごい苦手だったんだ。自分の卒業制作をつくるときにも、後輩から「あなたが触ると壊れるから触らないでください」って言われるくらい(笑)。だから、言葉とか、態度とか、生き方そのものでしか自分のアートを表現できないと思ったし、それが自分の特性でもあると思ったんだよね。

新婚の奥さんは、Ciftに入らない。でもそれも「拡張」の要素に。

アーヤ:けんちゃん、去年結婚したんだよね。法的な「家族」である奥さんは、Ciftのことをどう思っているの?

藤代:あなたがやっていることは応援するけど、私は入らない、なぜなら過去の経験(PROTO)から、こういうプロジェクトは一緒にやらないほうがよいと学んだって言われたよ。

僕と彼女は、人生を実験し続けるとか、シンプルで、ミニマムな生き方とか、世界への愛の持ち方とか、社会問題の切り取り方とか、そこに対する態度とか間合いとかはすごく合ってるけど、アクションは全然違う。彼女は一人の時間が好きだし、変なイデオロギーとかに巻き込まれたくない。すごくリアリストだし、左脳的で理論的。逆に僕は、エモーショナルなものが大好きだから。そこが違うっていうことをお互い認め合っているし、尊敬しあっているから、いいなって思えるようになった。

逆に、Ciftにいる時に出てくる自分と、彼女といるときに出てくる自分は全然違って、それが今の自分の人生に豊かさを与えているとも言えるし。

アーヤ:それもある種、自分を相手のほうに拡張していくっていうことだね。

藤代:そうそう。彼女がいることで自分が拡張されるし、パートナーという立場の彼女がCiftから距離を置くのも今ならすごくわかる。

アーヤ:そういうポイントも、Ciftのメンバーを選ぶ時に意識してた?

藤代:もっと複雑かな。女性と男性もそうだし、資本主義系と協働主義系、父性系と母性系とか、いろいろある。解きと結びの集合体として、複雑なレイヤーで、言語化できないレベルでバランスをとっているつもりだよ。

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メンバーそれぞれ、全国各地を飛び回っているため、テレビ会議も活用。

Ciftは未来の文化遺産になる

アーヤ:Ciftは将来どうなるんだろう?「終わり」みたいなものってあるのかな?

藤代:成功したら文化遺産みたいになるんじゃないかな。Ciftは、渋谷という都会のど真ん中、資本主義の中心みたいな場所で、協働主義の「村」であることを意義としているけど、そういう役割は時代の過渡期におけるものでしかないから。

歴史を見ていると、こういうのって物語として3回起きるんだよね。CiftはPROTOのあとの2回目だから、もう1個、未来に自分には何かあるんじゃないかな。それを自分が作りたいとかやりたいって思っているわけではなくて、そうなるんだろうなっていう予想だけど。Ciftはある種の「破壊」のプロセスで、3回目は新しい社会をつくる「創造」かな。そのときは、都会のど真ん中ではないと思うし、今あるエコビレッジとも違う何かになるんじゃないかと思う。

Ciftが時代における役割を終えた時に、僕も他のメンバーも卒業して、時間と空間を共にすることはなくなるけど、ここでの生活経験が、これからの時代を切り拓くひとつの価値になり得ると思ってる。だからみんながそれぞれのフィールドでCiftみたいなものをつくって、時代を引っ張っていくことが、ひとつの“エンド”なんじゃないかな。

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Ciftキックオフパーティーの時の写真
Photography: ©︎cift

学生時代に思い描いていた、世界を一つに繋ぐ「村」のアイディア。それが、ある種の時代のニーズと重なり、Ciftという形で実現化されたのかもしれない。そんな実験的な場に集った多様な38人のメンバーの一部を、次回以降、紹介していく。

Cift

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Kensuke Fujishiro(藤代 健介)

1988年千葉県生まれ。大学院在学中に場のデザインコンサルティング会社prsm設立。大規模開発のコンセプトデザインや東日本大震災被災地でのコミュニティデザインなどに多重的に携わる。世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityに選出され、2016年度東京ハブのキュレーターを務める。

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Ayah Ai(アーヤ藍)

1990年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ユナイテッドピープル株式会社で、環境問題や人権問題などをテーマとした、社会的メッセージ性のあるドキュメンタリー映画の配給・宣伝を約3年手掛ける。2017年春にユナイテッドピープルを卒業し、同年夏より「ソーシャル×ビジネス」をさらに掘り下げるべく、カフェ・カンパニー株式会社で精進中。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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