ノーメイクで自然光。「リアルな女性の写真」で女性差別に立ち向かう愛に溢れるアクティビスト・カップル

Text: Noemi Minami

Photography: Monica Reyes and Dan Monick

2017.8.31

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オープンでリベラルなイメージのあるアートの世界。でも実はほとんどの業界と同じで男女差別が問題となっている。女性アーティストが作品を発表できる機会が明らかに男性アーティストより少ないのだ。ジェンダー平等の観点から言って先進国であろうアメリカやヨーロッパですら主要な国立美術館で展示される女性アーティストの作品は全体の3-5%にしか及ばない。(参照元:NMWA

「女性のアーティストが自分を表現できる場所が足りていない」。この事実に危機感を持ったLAを拠点とするアーティスト、モニカ・レイズとダン・モニックはMasculine de La FEMME(マスキュリン・ドゥ・ラ・ファム)という女性アーティストのためのオンラインプラットフォームを2015年に立ち上げ、才能ある女性たちを世に送り出している。

Be inspired!は今回来日していた二人に会い、活動の意義やアートに対する強い思いを話してもらった。

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左がモニカ、右がダン

Masculine de La FEMMEはモニカとダンのコラボレーションによって作り出される女性アーティストのポートレート、アーティストの情報の発信を中心としたオンラインプラットフォーム。ポートレートはバックグラウンドがファッション業界のモニカがディレクションやスタイリングを行い、フォトグラファーのダンが写真を撮る。35mmの白黒フィルムで編集は一切なし、自然な光しか使わず、被写体となる女性たちにはノーメイクアップでお願いして、できるだけ自然な姿を切り取る。

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Samantha Vanderhoof on Masculine de La FEMME

ダン:作品はシンプルに保っている。今の社会では女性のイメージは非現実的すぎるから。メイクを少しする子もいるし、スタイルもディレクションもしてるけど、基本的には彼女たちのありのままの姿を尊重してるんだ。彼女たちが気が進まないことはもちろん絶対にやらないよ。興味深いイメージを作ろうとしているけど、一番大事なのは被写体とのコミュニケーションなんだ。

シンプルで、シックでかっこいい。このスタイルは有名な写真家ロバート・メイプルソープが恋人でもあったアメリカの女性ロックシンガー先駆者の一人であるパティ・スミスを撮った有名な写真にインスピレーションを受けたと話すダン。インタビュー中スマホで何かを探している様子だった彼は嬉しそうに顔をあげた。

ダン:今調べたんだけど、あのパティスミスの写真はレコード会社が色々手を加えようとしたらしんだ。それをパティが拒否した。彼女は当時の華やかな「女性シンガー」のイメージにしようとする業界の人に逆らって、男らしい服装のままポーズをとった。でもそれは政治的ステートメントとかではなく、それがナチュラルなパティだったから。興味深いね。僕たちがやろうとしていることをそのまま象徴しているよ。たった今まで知らなかったけど!

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日本で写真を撮るダン

Masculine de La FEMMEは十分な注目を浴びていない女性達にスポットライトを当てる。例えば、母親業をこなしながら仕事を頑張る女性の偉大さを社会は十分に認識しているだろうか?男性が少し育児を手伝えば「育メン」と賞賛され、女性がすれば「当然」となってはいないだろうか。

モニカ:このプロジェクトを初めて以来、これまであったことないくらい、優しくて、リアルな女性たちに出会った。このプロジェクトは彼女たちにとって「私たちが自由に自己表現できる場所があるんだな、社会に存在する問題に対して強い意見をもって、政治的思想を他の女性たち共有し、自分らしくいれるんだな」って思えるよう存在になった。

※動画が見られない方はこちら

作品のひとつに、ある女性アーティストが口紅をカメラの前でつけはじめ、そのまま唇にはとどまらず、どんどんどんどん口周りにも口紅を塗っていくビデオポートレートがある。

この女性アーティストと個人的な交友関係があるモニカは彼女がどれだけ働き者で、努力家かを知っている。しかしスポットライトを当てられない彼女が無限に唇を塗る様子は「働いても働いても認められない」ことを表していると感じたそうだ。題名は『私で足りる?』。あまり語られることのない女性の日常の苦労を、美しくスタイリッシュに表現している。

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Emma Bagley on Masculine de La FEMME

この「女性にスポットライトを当てる」というコンセプトのプロジェクトの裏には、モニカの過去の辛い体験もある。

モニカ:私は仕事場でセクハラを受けたこともある。でも仕事をなくすかもしれなくて何も言えなかった。あの頃はトンネルの中にいたみたい。助けを求められないと思い込んでいた時期だった。でも出られたの。といってもまだ完璧に抜け出せたわけではないかも。プロセス中かな。私はボスに「私は女性で仕事ができない」って思わされていた。でも本当は彼自身があまり頭の強い方ではなかったの(笑)「男として女に言わせてもらうけど」とか言ってくるから「男として男に話してるつもりでかまわないわよ、人間として話して」っていうけど変わらなくて。だから私は仕事を離れた。その場にいた私のチームも2週間後にみんな離れた。彼は間違っていたから。そのときは自分自身だけではなく、私が信じている人のために立ち上がらなきゃいけなかった。女性のために。彼が女性にそんな喋り方をして大丈夫だと思っているなら、行動をおこして大丈夫じゃないって知らせてあげなきゃいけないと思ったの。「ノー」は自分で言わなきゃいけないの。他の人ほど強くなくて、自分で言えない人のためにも。

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モニカ、神保町で。

昔から政治や人権問題に熱い思いを持っていたというダンとは対照的に、前からそうだったわけではないというモニカ。彼女の場合は本国で人種差別的、男女差別的発言を繰り返すトランプ大統領が政界で力を集め、ウーマンズマーチなどに参加して目が覚めたそうだ。

モニカ:私たちは教育されてきたことに挑戦しなきゃいけない。「どう考えるか」を教えこまれてきたけど、それが本当に正しいかはわからない。なのに学校では箱の外に出て、違う考え方をするように教わってこなかった。「どうして?」と疑問を持つことを教わってこなかった。だから自主的にリサーチをして議論するよりも教育を受けるままになってしまっている。大学を卒業をすると、仕事を見つけて家賃を払ってなんとか生き延びようとする。新しい友達を作って、社交が大切になって…そんななかで忙しくて大切なことを忘れてしまう。政治や人権についてなどの気まずい議論は避けてしまう。SNSが普及して、常に何かすることがあって、考える時間もない。私もそのうちのひとりだった。でもウーマンズマーチが私の目を覚まさせてくれた。

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Kendall Tichner by TK Anderson on Masculine de La FEMME

社会問題に関心を持つのは一部の人だけというのが今のところ常識。特に日本では政治や女性の権利について話すのは「タブー」という風潮がある。これは変わらなければならない。しかし一方でダンは日本に来てみて、組織的に他人に思いやりのある日本社会に感心したというからそれは誇らしい。

ダン:社会問題は自分に影響するまでみんな問題にしないよね。でも東京は初めてきたけれど、他人への考慮がすごくされてて興味深いよ。道ひとつをとっても、盲目の人のためのラインがある。アメリカでは見たことがないよ。電車の乗り降りもシステムがある。社会に根付いているのを感じる。納得だよ。なんでアメリカはそうしないんだろう?って思った。「アメリカでは“俺”が降りなきゃだからお前より先に降りる!」っていう態度だからね(笑)

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モニカ、歩道橋で。

政治や人権の問題は全ての人に大きな影響を与えるにも関わらず、会話のトピックとなりにくい。そんな状況を変える力を持つのがアートだ。「会話が生まれる場所。学べる場所。本物の自由があるのがアート」と断言するモニカとダンはそんなアートの力を使って社会を変えようとしているのだ。

Masculine de La FEMME

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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