フランスに住んで気づいたのは「日本人が”お客様は神様”だと思っていること」|フランスで“日本人“として生きることとは

Text: Noemi Minami

2017.8.10

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芸術、食、ファッションと何をとっても洗練されたイメージがあるフランス。ヨーロッパに行くなら、絶対に外せない場所の一つだろう。テレビではよく日本の伝統文化を愛するフランス人やアニメが大好きなフランスの若者について報道されたりするからか、なんとなく親日なイメージがある気もする。でも同時に、フランスでのアジア人に対する差別もよく聞く話だ。「カフェで通りから見える席にアジア人は座らせてくれない」とアーティストのGACKTがフランスでの体験談を数年前に自身のブログで公表し、多くの人が耳にしたのではないだろうか。それでは実際のところ、日本人としてフランスに住むのはどうなのだろうか?実際にフランスに住んでいる/住んだことのある日本人3人に話を聞いてみた。

「アメリカで“日本人“として生きることとは。VOL.1VOL.2」に引き続き、今回は海外で暮らしている/暮らした経験のある日本人にお話を聞き、異文化を学びながら、日本を外から見つめ、「日本人とは何か」「自分とは」を考え直し、世界への理解を深めるきっかけを作れれば嬉しい。

Lina、28歳、学生

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ーどれくらいフランスに住んでいますか?それはどんなところですか?

留学生としてフランスに暮らして1年になります。

ーフランスのどこに住んでいますか?

パリにある国際大学都市のなかの学生寮に住んでいます。1925年の創立以来、世界中から学生が集まる場所です。

ーフランスで何をしているんですか?

博士課程の学生としてパリの大学院で研究をしています。そのため、仕事のための在仏者や移住者とはフランスでの体験も大分違うと思います。特にパリでは、留学生や研究者には非常に理解があり概ね寛大なところがあります。

ーフランスの好きなところは?

芸術・教養への姿勢、学生・研究者への理解、育児や食事への熱心さ。

ーフランスの嫌いなところは?

今まで考えたことがありませんでした。自国の文化を誇るあまりの傲慢さ、またそれに伴う無知・鈍感を感じることはあります。

ーフランスから日本が学べることはなんでしょうか?

文化や伝統を手放しで保存・継承しようとするところ、そのために全力を注ぎ込む無弁解な姿勢。

ー日本からフランスが学べることはなんでしょうか?

集団で作業をする時、自ずと役割分担を行い黙々と働くところ。良くも悪くも人目を気にするところ。フランスの集団作業では蟻の巣のように必ず何人か傍観したり雑談する人が出る。

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ー「フランス人は日本人が好き」と「フランス人は黄色人種を見下している」と真逆のステレオタイプが日本では語られますが、あなたの人種にまつわる個人的な体験はどんなものですか?

おそらく、平均的フランス人の日本という国に対する知識・理解は日本人が思っているよりも大分低いと思います。いずれのステレオタイプもこの無知・無理解が起因となっているのではないでしょうか。つまり、何らかのきっかけで日本文化や日本人に触れたひとが、それがよい体験であった場合:「日本は素晴らしい国だ!日本が大好きだ!」となり、そうでなかった場合には「日本はなんてひどい国なんだろう、日本なんて嫌いだ」となる。そして「きっかけ」のなかった多くの人は、「日本?うーん、わたしはよく知らない」といった態度でしょう。いずれにせよ、フランスの現代社会において強い日本・日本人像はないということは事実だと思います。

私は個人的に有色人種として嫌な思いをしたことはありませんが、幼少時に住んでいたカリフォルニアなどと比べると、「アジア人としての自分」を強く意識する機会がとても多いです。たとえばパリで観劇の際、劇場内にアジア人が自分一人ということは多々あります。
 
上に触れたように日本・アジアに対する知識が乏しい人と接するとき、いつも新鮮な緊張感を覚えます。自分という人間が、その人にとって「日本」という国そのもののイメージになるのだと考えると、是非好感を持ってもらえればな、と願わずにいられません。

『Au paradis : 桟敷にて』:http://personanri2.tumblr.com

加藤貴大、26歳、ウェブメディア編集者

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ーどれくらいフランスに住んでいましたか?

計3年。

ーフランスのどこに住んでいましたか?それはどんなところですか?

リヨン。絹織物の産地、レジスタンスの拠点、世界遺産の街、美食の都。

ーフランスで何をしていましたか?

幼稚園生と大学生。

ーフランスの好きなところは?

人、文化、食。

ーフランスの嫌いなところは?

過度な自国第一主義、犬の糞を放置すること。

ーフランスから日本が学べることはなんでしょうか?

寛容さ、人間らしさ、政治的態度。

ー日本からフランスが学べることはなんでしょうか?

協調性、清潔さ。

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ー「フランス人は日本人が好き」と「フランス人は黄色人種を見下している」と真逆のステレオタイプが日本では語られますが、あなたの人種にまつわる個人的な体験はどんなものですか?

あくまで個人的な体験として、強く印象に残る人種差別は感じたことはありません。フランスでは自国(フランス)へのリスペクトに欠ける人が、ぞんざいな扱いを受ける。それが日本で語られるフランスでの「人種差別」だと思います。もちろん例外はありますが、フランスにおける人種差別の大半は、旅行者によって語られていると感じます。そしてその原因は日本人が”お客様は神様”だと思っているから。相手(お店の人)への敬意に欠けているからです。逆にいえば、旅行者だろうが、外国人だろうが、フランス語が下手だろうが、敬意を持っていれば、人種など関係なく快く受けていれてくれる風土がフランスにはあると思います。

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後藤 恵子, 23歳, 海外営業事務 / フリーランスペインター(日曜画家)

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ーどれくらいフランスに住んでいましたか?

1年間と時々の滞在。

ーフランスのどこに住んでいましたか?そこはどんな場所ですか?

アンジェという街に滞在していました。フランスの西方に位置しており、270程ある都市の中で19番目の都市と言われています。観光としてはあまり知られていませんが他国からの学生も多く、学生都市の1つと言われており、ここ3年程はフランスで最も住みやすい都市としても選ばれているそうです。ロワール地方の一都市ですが、中でも古城や中世最古のタペストリーなどもあり歴史も深い街です。

ーフランスで何をしていましたか?

フランスには“在住”の経験はなく“滞在”をしておりました。きっかけは学生時代に交換留学をした先がアンジェであったことです。というのも、自身が社会学部で学んでいたことが移民社会や移民国家でのアイデンティティ、共存などについてであったので移民国家、かつ愛国心が強く宗教論(ライシテなどの政教分離政策)などが多く語られるフランスで研究することにしました。その頃はもちろん学生として勉強をしていましたが、元々絵の似顔絵師やフリーランスのイラストレーターなどの仕事をしていたこともあり、展覧会や個展を開かせていただいたり、絵の売買もしておりました。その活動のために留学後も時折フランスへは行く機会があり、現在は日本に在住しておりますが、インターネットや友人に協力してもらって絵の売買の外、現地の本の挿絵や記事などのイラストを描かせてもらっています。

ーフランスの好きなところは?

フランスの好きなところはナショナリズム、愛国心が強いといわれるように、自国、自地域の伝統を大切にしていることです。日本は近代化や欧米化が始まって以来、集合住宅のような貫一的な、特色も少ないものが多くなったかと思います。その点フランスはその地の伝統が建物に色濃く出ます。単に教科書に載っているようなゴシック、ルネサンス、ロマネスク様式、というものだけでなく、屋根の色が青かったり、あるいは白色の建物でも装飾に特徴があります。また、一都市には必ずと言っていい程、お城かカテドラル(大聖堂)、小規模でも教会があるため、そうしたもの作りをみても特色が見られると思います。パリなどの大都市では景観を整えるために政府が建物の作りを規定することもあるようです。

また、国民性としてはおしゃべり好きな人が多い点が面白いと思いました。単に騒がしいということではなく、日本のように先進国であってもゲームや漫画などの娯楽は日本ほどではなく、人と付き合う方が余暇の過ごし方として多いです。バーやカフェが多いのも、そうした点から生まれた文化のようで、少しでも時間があるといわゆる「お茶しない?(ほとんどは一杯やらないか、の意味)」タイムが始まり、1、2時間は優に話しています。食事は皆で、という過程が多く2時間食事に時間をかけるのもザラです。個人主義者の多い国と、というイメージはありますが、案外人との交流や団欒が日本人より好きな人が多いように思います。日本好きのフランス人のなかには「大阪が好き、大阪の国民性がフランス人と似ている。(時には「東京の人は冷たい…」)」と言っている人が多く、妙に納得した経験があります。

ーフランスの嫌いなところは?

嫌いなところは重い面でいうと、移民慣れしているといえど、やはり移民、他国民に対して差別的な面がみられるところです。学生都市や観光都市ではさすがに慣れているのか、少ない方であったと思いますが、やはり特にアジア人に対してのあたりが全体的に見て強かったように思います。なかでも中国人に対しては良いイメージがあまりないようで、「日本人は大丈夫、中国人は…」といった差別的な対応も少なくなかったです。観光地などのレストランに行くとアジア人は奥座かあまり景色の良くない席に追いやられる、などという話も聞きますが、実際私もありました。

ただ、フランス人は自国語(フランス語)をしゃべったり、何らかの強みを見せると感心してくれることが多かったです。そういった時にはっきり(たとえフランス語でなくても)「あっちの方がいいんだけど」と言うと「この人は言える人だな」と感じるのか、逆にフランクな対応になることがありました。私の場合、絵でしたが、あちらでは「能ある鷹は爪を隠す」の美徳よりも自身の強い面は自信を持っておっ広げた方が成功すると思います。

軽い面で言うと、日曜日に飲食店以外の店がやっていないことです。フランスは休みを尊重する外、キリスト教が主要な国家なため、日曜日に仕事はしない、精神を徹底しています。また、平日でもパリの様な大都市以外は8時になったら飲食店以外は即終了です。知らずに観光に来てしまうと残念な結果にはなってしまいますが、ワークライフバランスやバカンスの取りやすさは、自由を尊重する国なだけあって格段に良いかと思います。(日本文化に慣れた消費者側からしたら厄介でした…。)

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ーフランスから日本が学べることはなんでしょうか?

前述した通りですが、フランスでは愛国心や文化の尊重などを学ぶことができると思います。芸術文化などのイメージが濃いフランスですが、最近での宗教問題でも見られる様に、移民問題やそれに関連する貧富の差、失業率の高さなど、多くの社会問題を抱えています。そのなかで、フランス人とは何か?国民とはどういう概念なのか?、ということを考えさせられたことは一般的に単一民族と称されてしまう日本人にとっては学びの多い場でありました。日本では移民ではありませんが、多くの外国人在留者が増えていると思います。私は米軍基地の近くで育ったため、外国の人に触れ合う機会はそれなりにあったと思いますが、最近はアジア系の労働者が急増しています。一方で、日本にはそうした外国人に慣れていない人があまりにも多く、外国人の友人からも「日本人は排他的だ」「いきなり死ねと言われた」という様な意見も聞きます。日本人が外国からの人々に戸惑わず、共存するために、また、逆に自身の国に自信を持ち、外国からの人を迎えるために、フランス社会をみることは学びが多いと思います。

ー日本からフランスが学べることはなんでしょうか?

上記では日本人の外国人に排他的な面しか触れませんでしたが、日本人は基本的に優しいと言うか、根本は懐っこい気がします。最近流行の“おもてなし”でもあるように知らない外国人が話しかけても忙しすぎるサラリーマン以外は案外一生懸命になって答えてくれたり、道を教えてくれるのも稀ではありません。最近日本に越したフランス人の知り合いはなぜかご高齢の人に良くしてもらう機会が多いらしく、「腰の悪そうなおじいちゃんの畑仕事を初対面だけど手伝ったら野菜をいっぱいもらった」と言っていました。ちなみに先程出した、突然「死ね」と言われたフランス人はそのあと、後ろにいたおじさんがその光景を目の当たりにして死ね、と言ってきた若者の胸ぐらを掴んで怒鳴り叱っていたとのことでした。日本人は忙しさ故に、冷たい態度を取る羽目になってしまっている人が多々いると思いますが、その真のお節介好きというか、優しい面をフランスにも学んで欲しいと思います。

ー「フランス人は日本人が好き」と「フランス人は黄色人種を見下している」と真逆のステレオタイプが日本では語られますが、あなたの人種にまつわる個人的な体験はどんなものですか?

先程述べてしまいましたが、どちらもあることだと思います。100人に同じ質問をして皆が同じ回答をしないように、考え方や価値観もさまざまで日本人が好きな人もいれば、アジア人は好きだけど、なかでは日本人だけはどうしても嫌い、という人もいるかもしれません。ただ、少し感じたのは、日本と韓国、あるいは中国との関係の様に若い人同士で人種を武器に争う人はあまりいなかったと思います。フランスと日本では移民と国際関係、なのでわけは違いますが、フランスの場合“移民は自分たちの税金でタダ飯を食っている”、“移民のせいで(純)フランス人の仕事がなくなっている”と言う様な意見が多いですが、若い人は比較的外国人に対して友好的な態度が多かった様に思えました。一方でもちろん、若い、高齢に限らず、私を不思議そうな顔で見る人、避ける人、列で抜かす人などもいました。アジア人として暮らしていると、「今悪口を言っているのは自分のことだろうか」と妙に自意識過剰になってしまうこともありました。

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今回、フランスに住んでいる/住んだことある日本人3人が、個人的な体験をBe inspired!にシェアしてくれた。興味深かったのは、3人ともフランスの「愛国心」をいい面でも、悪い面でもあげていたことだ。いい面の「伝統や文化に誇りを持ち、大切にする」という姿勢からは私たち日本人も学べることがあるのではないだろうか。

アジア人差別に関しては、実際に存在するという意見も確かにある上で、個人の姿勢も影響していると考えていると読み取れた。フランスは移民大国であり、同化政策を採っているためか、外からきた人々にもフランス文化への理解が住む上で求められる(それの善し悪しは別として)。そのうえで、「尊敬を見せる」「自信を見せる」などの態度で受け入れられ方が変わってくるようだ。

今回3人が話してくれた体験は、全日本人、フランス人を代表するわけでもない。しかし、それでも日本を今生きるみなさんが彼らのストーリーを通してそれぞれの形で、自分についてや、日本について、何かを考える機会となれば嬉しい。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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