「障がい者」という社会のタブーを超えて、人々に笑顔を与えるカフェ

2017.5.12

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コーヒーの産地として名高い中米ニカラグア共和国。広い国土に湖や火山、ジャングルなど豊かな自然に恵まれているが、一方で「中南米最貧国」でもある。

この地域に世界中の誰もが使える「共通言語」で、人々を笑顔にさせるカフェがあるのだとか。

言葉を交わさないカフェ

スペイン語で「笑顔のカフェ」という意味を持つ「Café de las Sonrisas」がそのカフェだ。かつてスペインの植民地で、公用語がスペイン語のニカラグア共和国。しかし、このカフェでは客と店員が言葉をかわすことは一切ない。なぜならここで働くスタッフはウェイターから料理人まで全員が難聴であり、いわゆる「障がい者」だからだ。

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Photo by Café de las Sonrisas

ニカラグア共和国では2003年の時点で10人に1人が何らかの障がいを持っているのに対し、多くの企業では従業員数50名に対し2人の障がい者を雇うというニカラグアの法定基準が守られておらず、障がい者の失業率が約99%にも上るという。

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Café de las Sonrisas

この現状を打破するべくスペイン人のアントニオ・ピエトロ氏がNPO「Centro Social Tio Antonio」を立ち上げ、その事業の一環として5年前に「Café de las Sonrisas」をオープンしたのだ。

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Café de las Sonrisas

オーダーはメニューの指差し方式だが、カフェ店内の壁に飾られた絵による様々なフレーズの手話を実践することによってスタッフとの会話が可能となり、障がい者と健常者だけでなく言語の垣根をも超えた繋がりを持つことができるのだ。アントニオ氏は「企業が障がい者を雇うことと、障がい者自身が働くことへ恐れを払拭するための手本になることがこのカフェの目的である」と話している。(参照:米HUFFINGTONPOST

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Café de las Sonrisas

クロネコヤマトが始めた「パン屋」

地球の裏側、中米ニカラグアではこの「笑顔のカフェ」の他に若者や失業者のための職業訓練所としての手製ハンモックストアなどCentro Social Tio Antonioの元、障がい者の労働支援の輪が広がっている。しかし、実は日本でも障がい者と健常者との間にある距離をぐっと縮める素敵なパン屋さんが存在する。

「障がいのある人もない人も、共に働き、共に生きていく社会」。このノーマライゼーションの理念を掲げる「焼き立てのおいしいパンのお店」スワンベーカリーだ。

現在、直営店4店、フランチャイズ店23店、合計27店が全国展開し、日本の障がい者雇用の新たな形を作った株式会社スワンの藤野さんに障がいを持つ人が働くこと、障がいを持つ人と共に働くことについて話を伺った。

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スワンベーカリー

「クロネコヤマトの宅急便」でおなじみのヤマト運輸株式会社代表取締役、会長を経てヤマト福祉財団の理事長となった故・小倉昌男氏が設立した、株式会社スワン。

当時、障がい者が働く共同作業所では月給が1万円にも満たないことを知り、自立するにはほど遠い現状に疑問を持った小倉氏。そこで、長年経営者として培ってきた経験を生かし、障がい者雇用に対する意識改革を図るため、障がい者による「作品つくり」ではなく、一般の消費者を対象として売れる「商品作り」を目指したセミナーを1996年から全国各地で開催した。

この過程の中で障がい者に対して月給10万円以上を支払うことを実践する事業を開始することを決め、障がい者雇用の場を作り、障がい者の自立と社会参加を応援し、働く喜びと幸せを感じられる社会を実現するために設立したのがスワンベーカリーである。

width="100%" スワンベーカリー

従業員95名の内、知的障がい者34名、精神障がい者6名と約半数の従業員が障がい者であるが、健常者も障がい者も共に働く仲間として、お客様が喜んでいただけるような商品作り、接客をしていくことに重点を置いている。

また、スワンで働く健常者は障がい者と働くにあたって特別な訓練などはしておらず、ほとんどの社員が入社して初めて障がい者と働くことを経験する。さらに、スワンは福祉施設ではなく、あくまで「焼き立てのおいしいパンのお店」であるということが前提。働いている障がい者は、それなりに就労出来る能力があり、指示されたことは理解ができる人たちであるため、障がい者の従業員を特別扱いすることなく同じ働く仲間として日々接しているそうだ。

「障がいがある人と働く」ということに関して、生産性が落ちることは避けられない。しかし、「障がい者を雇う=何から何まで面倒を見なければいけない」という一般的なイメージとは異なり、出来ない部分を健常者が少しだけフォローをしてあげれば普通に働ける障がい者はたくさんいるというのが事実。また、障がいを持つ従業員のフォローをすることも、健常者である社員の仕事の一つだと話している。

さらに、障がいを持つ人がスワンで働き、与えられたポジションをやりこなすことで責任感と自信が生まれ、自分で働いて得た給料で今まで出来なかった習い事に行ったり、特に女性は見た目を気にするようになり、大きな変化が現れるという。スワンではこれまでに350名以上の障がい者の、経済的に自立、仕事を通しての社会参加に貢献をしている。

完璧な人などいないのに、「障がい者」を差別する日本社会

電車の中やレストランで障がいのある人を見かけた時、無意識に目を逸らしてしまう人は少なくないはず。そこで、1つ思い出してみてほしい。あなたは幼い時、同じような状況の中で大人から「ああいう人をジロジロ見てはいけない」と言われた経験はないだろうか。そう、その幼い頃に刷り込まれたイメージこそが「障がい者=触れてはいけない」という社会のタブーを作り、無意識の差別を生んでいるのだ。

しかし、グラナダのカフェやスワンベーカリーの関係者の人々が口を揃えて主張しているのは、「障がいがあること以外は私たちと同じ社会の一員である」ということ。そして、「できないこと」ではなく「できること」に目を向け、それを最大限に活かせるような環境を作りを重要視すること。

視力が悪い、膝や腰が弱い、お腹をよく壊すなど、私たちは誰しも完璧な人間ではないからこそ、「人と人との繋がりが暖かいものになる」ということを忘れてはいけないのではないだろうか。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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