祖母のコート、母のワンピース。25歳のモデル・前田エマが三世代に受け継がれる“お古”を着続ける理由|赤澤えると『記憶の一着』 #003

Text: ERU AKAZAWA

Photography: ULYSSES AOKI unless otherwise stated.

2018.3.6

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こんにちは。赤澤 えるです。
思い出の服を持ち寄る連載『記憶の一着』第3回です。
たくさんの服が捨てられる世の中で、残る服って何だろう。それはどうして残るのだろう。それを手放す時ってどんな時…?

服の価値、服の未来、
ゲストのお話をヒントに考えていく連載
です。

Photo by 撮影者

▶︎赤澤えるのインタビュー記事はこちら

本日のゲストはモデル・前田エマさん。私と同じく赤いワンピースが大好きだと言う彼女は、東京造形大学を卒業しオーストリア・ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持つ、優れた才能の持ち主。モデルだけでなく、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、分野にとらわれない活動で注目を集める彼女が選ぶ、『記憶の一着』とは?

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前田 エマさん

亡き祖父と彼女を繋ぐ、前田エマの『記憶の一着』とは

赤澤 える(以下、える):『記憶の一着』について聞かせてください。

前田 エマ(以下、エマ):祖母のコートと、母のワンピースです。どちらも譲ってもらいました。

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インタビュー当日、エマさんは“記憶の二着”である
「祖母のコート」と「母のワンピース」を着用してきてくれた

える:記憶の二着ですね。

エマ:私ね、ケチなんですよ。すごく。 電車賃も歩けるなら歩いて浮かすくらい。服もそんなに買わなくて、買う時も財布の紐が堅いんです。でも服は好きだし欲しくなるし、お店に行くと欲しくなっちゃうし、買わなくても強い誘惑を感じる。だから新しい服が欲しくなると、よく祖母の家に行くんです。祖母はお洒落な人で、いっぱい服を持っていて、もちろんその中には着ない服もある…それが“お洒落が好き”と言えるのかと言われれば謎なんですけど…。このコートは祖母の家にあって、祖母が着ないから私が貰いました。それからメンテナンスに出したりしながら大切に着ています。

える:お祖母様がこのコートをどうやって手に入れたか知っていますか?

エマ:私の祖父は海外にずっといるような仕事をしてたんですけど、お土産に布を買ってきていたそうです。ハンカチーフやアクセサリーの時もあったけど、よく布を買ってくる人だったそうです。その布を、祖母は洋服や着物や帯にしたりしていました。これは中国で見つけたカシミヤの入った布です。それを祖母が知り合いのテーラーさんに渡して作ってもらったコート。30年くらい前のものなので、今82歳の祖母が52歳くらいの頃のもの。祖母はファッションデザイナーでもなんでもないけど、買ってきてもらった布を見て「この布だったらこういうものが作りたい、こういうものが着たい」って妄想して作ってもらったそうです。

える:そんな素敵なものを譲ってもらったんですね。いつ譲ってもらったんですか?

エマ:2〜3年前です。その頃にちょうどチェスターコートが流行りましたよね。私も欲しくなったけれどコートって高いから余計に財布の紐が堅くなって…それで祖母が眠らせていたものの中から発掘して着てみたら「これは今っぽいぞ」と。

える:30年前のものが今の気分にハマるって、なんだか素敵ですね。

エマ:巡り巡ってきた感がありますね。「私のために眠ってたんだ」って思ったくらいです。私は祖父が死んでから産まれたので一度も会ったことがないんですけれど、祖父が祖母のために買ってきた布っていうところが本当に嬉しいなと思っています。

える:愛に溢れるコートですね。

エマ:そうです。それに、えるさんにお会いできるから今日は赤いものを着たかったんです。赤は元々好きなのですが、今日は特別。

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世界でたった一着の赤いワンピース

える:ワンピースも可愛いですね。私、赤いワンピースには目がなくて。

エマ:これは母が今の私と同じ歳くらいの時に、さっきの祖母のコートを仕立てたのと同じテーラーさんで作ったものです。母はクラシックなものが好き。小学生の時からフランス映画が好きで大学ではフランス文学を学んでいました。とにかくロマンチストな人。母の方が私より華奢でちょっとだけ背が低いんですけど、服はほとんどシェアして着れます。

える:どちらも世界でたった一着なんですね。ちなみに、この服たちをもし手放すとしたらどんな時ですか?

エマ:うーん。自分に子どもが産まれたら…かな。服を売るって発想はそもそもあまり持ったことがない。ケチだから他人にあげたくない(笑)
このワンピースは私にとって勝負服なんですよ。後ろ姿もすごく可愛くて、何かある毎にいつも着ています。だからよく見てくれている人には多分、この服のイメージがついていると思います。

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える:確かに、エマさんは赤い服を着ているイメージが強いです。

エマ:えるさんのような「赤代表!」みたいな人にそう言っていただけるなんて…光栄です。赤の服って「売れないんじゃないか」って思われている気がするんです。みんな黒とか無難な色を着たがるから。最近少し増えた気はするけど、前は探しても赤が全然見つからなかった。「この服の赤バージョンがあったら絶対に買うのに!」って思うことが多かったんです。だから、えるさんのLEBECCA boutiqueはどのシーズンも赤があるから嬉しい。

える:そんな風に言っていただけてこちらこそ嬉しい!いつも買い物をする時、赤い服を選ぶことが多いですか?

エマ:そうですね。私は自分で絵を描いたり写真を撮ったりするので色にすごく反応するんです。形がいくら気に入っても色がしっくりこないとお金を払いたくない。

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父親のパンツと靴下を見て育った

える:エマさんが赤色を好きな理由って何ですか?

エマ:自分で意識して好きだと思ったのは、大切な人に「赤が似合うね」って言われた時。「そうなんだ!私って赤が似合うんだ!」って思って、その人と会う時に赤を着るようにしてたんです。すごく単純。でもよく考えると小さい時から赤い服を着ていましたね。父は年中スーツを着ている人なのですがネクタイもパンツ(下着)も靴下も赤で、家に色々な赤が干してあるんです。だから小さい頃からずっとそれを見てて、赤ってこんなに色々な色があるんだなって思っていました。多分、根っこの部分は父親のパンツと靴下ですね。

える:馴染みのある色だったんですね。

エマ:周りの人が暗い色を着ていても、父親のパンツと靴下を見て育ったし、家には赤が溢れていました。

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える:赤が好きな人ってこだわりが強い人が多いんじゃないかって勝手に思っているんですけど、エマさんはどうでしょう。その綺麗な長い髪とか、やっぱりこだわりがありますよね?

エマ:私この髪には全然こだわりが無いんです。私の性格はケチで面倒臭がり屋だから。最近美容室に行ったときも二年ぶりだったんです。自分でもびっくりしたけど気にしてなくて…。普段は髪を乾かすことも面倒臭い。染めたりするのもお金がかかるし、一番これが楽でしっくりくるからこうしてる。でも、36歳になったら前髪をパッツンにしたい。

える:どうして36歳?

エマ:色々考えると、人間が大人になる瞬間が36な気がするんです。だからその時に前髪を切って「私はまだまだ子どもだよ」って言いたい。それよりも早く大人になったなって思ったらその時に前髪を切ります。

える:エマさんが前髪を切ったら絶対に話を聞きたい。大人になったんでしょ!?って(笑)

エマ:でも前髪を切ると1ヶ月に一回は美容室に行かないといけない。それは面倒臭い…。だから前言撤回するかも…。

える:でもエマさん、面倒臭いって言いつつ、コートはメンテナンスに出したりするんですよね。

エマ:我が家は毎週クリーニング屋が来る家だったんです。毎週土曜の朝、ピンポーンって。家がお金持ちだからとかではなく、その地域の営業だったんだと思う。だからそれが来たらとりあえず出していました。ある日「お洒落をするというのはこういうことなのよ!」って、母がクリーニングの領収書を見せてきたんです。その時「あ、クリーニングってこんなにお金がかかるんだ…!」って思って、それからは自分で出しています。高い服は維持費も高い。でもその分大事にできる。

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物語のある服が欲しい

える:確かに高いけど、安い服を大量に買って捨てて…を繰り返していると、高い服を少し買って長く着るのと同じ金額になったりするんですよね。無意識だから気がつかないけど、安い服ってすごくお金がかかる消費の1つだと私は思うんです。エマさんはどう思いますか?

エマ:そうですよね。私は服をあまり捨てたことがないです。結論として、安い服って生地も丈夫じゃないから長くきれなくて、高い服は生地も丈夫だし、色も持つし覚悟して悩み抜いて買うから長く着る。安い服はその瞬間は良いと思っても、次の年には着ない確率が高いと思う。安い服でも思い出に残る服はもちろんあるけど、やっぱり高い服は自分の色々な感情とか、そのためにお金を稼いだとかそういう部分まで含めて大事にできる。
母は私の服を見て「私が若い頃もこういう服があったら良かったのに、バブルだから無かったのよ」ってよく言うんです。でも若い頃に、襟がついた、グレーに黒い水玉のワンピースをMILKで買ったことがあるらしく、自分にとって好きなものが目の前に現れた!って感覚で相当嬉しかったそうです。でも今手元に無いからきっと手放してしまったんですよね。母のお気に入りを私も着てみたかった。こう思いをしたのもあって、自分の子どもや孫に着てもらうことができるから私はなるべく取っておきたい。

える:受け継ぐことができるって嬉しいですよね。そのことがまた思い出になるというか。

エマ:そうですね。風景は変わっていくけど服は変わらず居続ける。

える:最後に1つ質問。エマさんが今後買うもので「記憶の一着」になるとしたらどんなものだと思いますか?

エマ:それ、よく考えますよ…私の母は父からもらったものをすごく大切にする人なんです。例えば着物とか鞄とか。ロマンチックだな〜と…それがとにかく羨ましくて。自分で何かを買って思い出にするよりは、誰かにプレゼントされたり受け継がれたり、そこに物語のある服が欲しいな。

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祖父に愛される祖母、父に愛される母、そういった愛への憧れを、エマさんの言葉から強く感じます。自身のお母様のことをロマンチストだと言っていたけれど、エマさんだって間違いなくそう。家族がパートナーを愛していることを羨望しているその愛おしそうな表情が、それを物語っています。そしてそこに前田エマという人物の良さがあり、大切にできる服を見つける大きなヒントと答えが共在しているとも感じます。赤色に対する感覚がこれほど近い人が愛で溢れた人なんて嬉しい…きっと愛でいっぱいの素敵なご家庭なんだろうなぁ。私も、誰かに受け継げるものを受け取っていきたいです。

Emma Maeda(前田 エマ)

TwitterInstagramBlogBio

1992年神奈川県生まれ。東京造形大学在学中にウィーン芸術アカデミーに留学。
主な展示に、個展「アトリエE17のこと。」 (荻窪6次元/ 2014)、
個展「Mirrors and Windows」(代々木八幡NEWPORT / 2015)、「VOCA展」(上野の森美術館/ 2016)など。ミュージシャンとコラボレーションした朗読イベントを行ったり、現在3本の連載を持つなど、活動は多義に渡る。ナウファッションエージェンシー所属。

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前田エマ個展:「失う目」

日時:2018年3月16日(金)〜18日(日) / 23日(金)〜25日(日) <計6日>
13時〜20時 ※イベント開催30分前からギャラリーは一旦閉めます。
入場料:500円(お菓子と飲み物付き)
場所:Fluss 東京都世田谷区等々力2丁目1-14 B1 (http://fluss.es)

このたびFlussでは、前田エマの3年ぶりとなる個展を開催いたします。
「失う目」と題された本展では、とあるマンションの一室から見える風景を通して、ひとりの人間の「目」が作りあげられる過程をたどっていきます。
建物が作り出す風景を切り取り提示する「目」。親が選んだ一室で育つ価値観という「目」。成長しそのことを疑う自分自身の「目」。
「上書きされ続ける記憶のなかの風景」をテーマに制作を続ける前田が、4年ほど前から強く関心を抱く「親(家族)」に対する疑問や感動を手がかりにして、インスタレーションを展開します。詳細はこちら

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Eru Akazawa(赤澤 える)

TwitterInstagram

LEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。
特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。
また、参加者全員が「思い出の服」をドレスコードとして身につけ、新しいファッションカルチャーを発信する、世界初の服フェス『instant GALA(インスタント・ガラ)』のクリエイティブディレクターに就任。

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instant GALA

クラウドファンディング

あの日、あの時、あの場所で、あなたは何を着ていましたか?「載せたら終わり」の新時代、載せても終わらないものは何ですか?服への愛着・愛情を喚起し、ソーシャルグッドなファッションのあり方を発信する、思い出の服の祭典。
4月22日(日)渋谷WWW Xにて初開催です。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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