「食のために毎秒4万の命が殺される」。その事実を全身で訴え続ける、“動物”に最も近いアーティスト|GOOD ART GALLERY #010

Text: Shizuka Kimura

Artwork: ©Alfredo Meschi

2018.3.4

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全身がXで覆われ、異様なオーラを放つこの男性。彼は一体なんのために、こんなに多くのタトゥーを入れたのだろうか。

Xタトゥーは全部で4万個。この数字がもつ意味を考えてみてほしい。

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これは私たち人間の食を満たすために毎秒殺されている世界中の動物たちの数である。Alfredo Meschi(アルフレッド・メスチ)はこの事実を忘れないよう、全身に4万個のXタトゥーを入れ、簡単に失われていく動物たちの命の重さを全身を使って表現した。

スーパーや飲食店などではありふれている豚肉や牛肉。その命を無残に扱っていないだろうか。彼のウェブサイトやインスタグラムでは、豚や牛など人間の食を満たすために犠牲になっている動物たちとの写真が多く見られる。

「身体を張ったアート」で表現された動物たちの姿

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アルフレッドは自身をアーティストでもアクティビストでもなく、「アーティビスト」(アーティストとアクティビストの造語)としている。彼がタトゥーという表現で動物の権利と自由を訴えるきっかけとなったのは、 “Poner el cuerpo sacar la voz” (薬の密売や崩壊した政府に反抗するという強い信念をボディペイントで表現したメキシコのアーティビストたちのグループ)である。彼らを含むアーティビストたちからの大きな影響を受けたそうだ。
 
もちろん、他の動物の権利の保護を訴える活動家たちとも協力したりデモ行進や街頭キャンペーンのような一般的な活動にも参加しているが、アルフレッドはヴィーガンアーティビズム(完全菜食主義+アート+動物の権利を訴える活動)が大きな可能性をもっており、この社会の状況を変えるためにはできるだけ多くの「ツール」が必要だと考えている。彼にとってタトゥーも社会へメッセージを伝えるツールなのだ。

人種差別ならぬ「種差別」

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アルフレッドの信念にはanti-spiecism(反種差別)*1がある。反種差別とは人間以外の動物に対する差別の撤廃を掲げていることであり、人間とそれ以外の生き物の違いを認めながら、全ての生き物には平等な権利があると考えるべきだというものである。彼は動物を私たちが地球を共有する、感覚をもった他の生き物だと考えており、「私たちは動物を優越する権利はないし、地球のバランスを保つためだけに動物が大事だということでもない」と語っている。

(*1) 種(しゅ)とは生物分類学上の基本単位で、人間以外の種の生物を差別することをさす

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そしてもし平和で公平な社会に生きたいのなら、エシカルヴィーガン(食べ物だけでなく、身の回りのものからできるだけ動物由来のものを避けること)が唯一の方法だと彼は考えている。普段生活をしているなかで、人間本位にならない考え方を持ち続けることは簡単ではない。ただ、人間が他の動物たちとこの地球上で共存しているという事実を忘れてはいけないだろう。

狩猟家系からビーガンへ

このような強い信念をもって行動するアルフレッドなのだから、長年ビーガン(完全菜食主義)として生きてきたのだろうと思う人も多いかもしれないがそうでもない。彼は代々、狩猟や漁業を行ってきた家系に生まれた。そのような環境で育ってきたがゆえ、幼い頃は自身も狩猟や漁業に連れて行かれたそうだ。家族の影響を取り除くのはとても大変だったという。

今の彼にとって、重要なことは育った環境や社会に馴染むことでもなく、持続可能性や社会における公平さなのだ。正反対と思える環境で生活してきたからこそ、動物に対する思いやりを十分が強いのかもしれない。様々な経験の連続が少しずつ彼の意識に影響を与え、結果として彼をビーガンという選択肢にたどり着かせた。

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「全てが自由になるまで誰も自由じゃない」。これが人生の最後までアートやパフォーマンスで表現し続けたいことだという。どこかで何かが犠牲になるのならば、それは自由で平等な社会とはいえない。

全身に「X」を刻むアクティビスト

事実を訴えるとともに、全身のタトゥーはアルフレッドの「動物が不当な扱いを受けることに反対し、動物の自由を尊重するという信念」が永遠のものだと表すために彫られているのだ。この行動はユニークであるがゆえ、賛否両論があるが、ポジティブな意見もネガティブな意見も受け止めたうえで、どちらの意見にも価値があり、まず社会の動物に対する不公平についてもっと話すようになることが不可欠だと彼はいう。

動物の権利や自由を尊重するため、殺処分や虐待の撲滅を目指す活動などを行うというのが一般的かもしれないが、多くの人の目を引く一風変わった表現で訴えかける彼のようなアクティビストはまだ少ないだろう。

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人間のために犠牲になっている動物たちがいるという事実を彼を見るたび思い出すかもしれない。しかし同時に、その事実に目を向ける強いきっかけを誰かがつくってくれなければ気づかない社会であることも確かだ。奪われていく動物たちの権利を一分一秒忘れないようにするために刻まれたタトゥーは、人間の動物と彼らの生活を尊重する気持ちを刺激し、動物の立場になって考える大切さを教えてくれる。彼の表現から動物の感情に共感できたり、動物たちの痛みを感じられたり、同じ生き物として考えたとき、五感に響く何かを感じないだろうか。それを感じた人々が心の中に動物との共存を考えるきっかけとなる何かを刻んでいってほしい。

Alfredo Meschi

WebsiteInstagram

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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