「恥をかくのは普通。気にしないで飛び込んで」。独学で映画、音楽、VRを学んだ弱冠20歳の彼女が“日本の若者”に伝えたいこと

Text: Noemi Minami

Photography: Tomofumi Usa unless otherwise stated.

2017.5.29

Share
Tweet

アメリカ、ロサンゼルスを拠点とするKayla Briët (ケイラ・ブリエット)は自信とポジティブなエネルギーに満ち溢れた多才な20歳。映画、音楽、VR(バーチャル・リアリティ)などのテクノロジーの学問…実に多方面で活躍している。

趣味も中途半端にしかできない筆者としては、ケイラの様々な分野を極めるそのバイタリティーには驚きを隠せなかった。生まれつきの才能の違いかな、とふてくされてしまうところだったが、海外でも人気をみせるネオ東京・歌謡曲のパイオニアサテライトヤングのPV撮影のために来日中の彼女が成功の秘訣をBe inspired!に教えてくれた。

基本DIY。必要なことはインターネットで勉強するデジタルネイティブ

width=“100%"

2014年、16歳の時にホワイトハウスフィルムフェスティバルで自主制作ショートフィルム『Technology in the Classroom!』が選ばれ、ファイナリストとしてオバマ前大統領と面会も果たしたケイラ。

その後18歳のときに監督した『Smoke that Travels』(2016)では二ューヨーク近代美術館、スミソニアン協会、ナショナルジオグラフィックなどのインターナショナルな賞を受賞し世界中の映画祭に招待された。

その際の映画音楽は全て自身で製作。ミュージシャンとしてもライブ活動を行っている。

さらに、科学教育面でもアメリカの名門MITでクリエイティブテクノロジー部門のインターンシップのポジションを獲得し、テクノロジー業界で男女差別を減らすために活動している非営利団体Girls Who Codeのゲストスピーカーとして4回登壇。現在はより多くの人がVRの勉強をできるようなコミュニティ作りをしつつ、VRを駆使した映像製作を行っている。

width=“100%"

弱冠20歳で映画、音楽、科学教育…と様々な面で成功しているが、驚くことに英才教育を受けたわけではない。

私の家にはあまりお金がなかった。両親も子供時代に完璧なサポートを受けて育ったわけじゃなかったの。両親は私のことを18歳のときに産んだからとても若かったんだけど、お金はなくても常に私をサポートして応援してくれた。だから今は自信を持っていろんなことに取り組めるんだと思う。

物質や教育に恵まれた環境にはいなかったから、知りたいことは全てインターネットで学んだそうだ。コンピューターのコーディングも、ライブで使うおばあちゃんからもらった楽器の演奏の仕方も、映画の作り方も、全てよくあるネットのチュートリアルビデオでコツコツ勉強したという。

SNS中毒などが懸念されるデジタルネイティブだが、ケイラはインターネットに精通した幼少期を最大限に活用したいい例かもしれない。

何をやってても目的は一つ。信念と一貫性のある活動

width=“100%"

映画製作、音楽製作、テクノロジーの勉強。一見分野が異なる活動だが、彼女にとっては一貫性がある。なぜなら彼女は全てを「ストーリーテリングの方法」として捉えているからだ。

ストーリーが忘れられたら、どうなるの?

これは、彼女が世界的に注目を浴びるきっかけとなったショートフィルム『Smoke that Travels』(2016)の冒頭のシーンで、観客に静かに問いかける言葉だ。

『Smoke that Travels』(2016)はネイティブアメリカンのプレーリー・バンド・ポタワトミ族であり、伝統的なダンスや言語の指導者であるケイラの父を、娘の視点で追いながら、「ストーリーが語り継がれる大切さ」について説く。

もし私たちのストーリーが無視されたり、書き直され、アイデンティティが否定されると私たちは透明な存在になる。誰からも見えなくなる。だからストーリーテリングは私たちが生き残る手段なの。

「ストーリーを語り継ぐことがなぜ重要なのか」と聞くと彼女はこう答えた。

width=“100%"

ネイティブアメリカンの歴史はヨーロッパから“開拓者”がやってきて以来迫害の歴史でもあり、差別は今もなお続く。
 
北米に暮らしていた部族たちはアメリカ政府によって保留地に押し込められ、伝統的な生き方を奪われた。そして性的暴行、家庭内暴力、アル中、自殺…現在も彼らのコミュニティにはたくさんの問題が残る。

プレーリー・バンド・ポタワトミ族の中で流暢にかれらの言語を話せる人もあと一握り。若い世代が学ばなければ彼らは「透明」になってしまう。

ケイラはこの悲惨な状況を映画を通してダンスや音楽など誰もが理解できるポジティブな「ストーリー」で世界に語りかけることにした。目を背けたくなるような悲しい事実を観客に突きつけるのも議論をうむ方法ではあるが、彼女の目的は「オープンな会話」を作り出すことだったため、コミュニティに明るいスポットライトを当てたそうだ。

width=“100%"

「ストーリー」こそ世界が平和になるための重要な要素だとケイラ言う。なぜなら「ストーリー」は国や文化に関係なく全ての人が「心」で理解できるものだから。共感する心があれば、意見や立場が違っても「会話」が生まれる。そしてこの「会話」こそ平和で尊敬のある政治や社会づくりに必要不可欠なのだ。

物事を対極化してはいけない。人にレッテルをはってはいけない。議論をして、意見が食い違うことも大切。それでも話しあうことが大切なの。世界中の多くの問題はもし人々が平和的に話し合ったら解決すると思うの。もちろんそんな単純な話じゃないのかもしれないけど、話し合いやストーリーを通して繋がることは必要不可欠だし、人々を結ぶ力があるはず。

排他的な社会へと舵を切るトランプ大統領の政権下の中で長い間迫害を受けてきたネイティブアメリカンとして語る彼女のこの言葉には重みがある。

※動画が見られない方はこちら

自信を持って、失敗を恐れないで

width=“100%"

新しいことに挑戦するのには勇気がいる。次々と新しい世界に飛び込むケイラには自信があると、会話してみるとすぐに伝わってくる。

でも昔からそうだったわけではないそうだ。彼女はアートに出会って、自己表現の方法を見つけて変わった。

芸術や音楽に出会って世界を生み出せるようになった。自分の存在よりも大きな世界を。私は誰かに勇気を与えられるようなものを作れたなら内側から美しいと感じれるの。子どもの頃はすごく変な子だったのに変わったと思うよ(笑)

子どもの頃自信を持てなかったのは、多文化なバックグラウンドが影響していたという。学校の子どもはみんなヨーロッパ系のアメリカ人。中国とオランダとインドネシアのミックスの母とネイティブアメリカンの父を持つケイラは白人ばかりの学校では「普通」ではなかった。

自信を持てなかったのは、どのコミュニティにも属せていないって感じていたのが原因の一つだったかも。中国人のおばあちゃんに餃子の作り方を教えてもらった次の週はパウワウダンス(ネイティブアメリカンの伝統的なダンス)を踊ってたり…「学校では目立つな」って教わるでしょ。だからだんだん自分が人と違うことを恥ずかしく思うようになっていった。どんな若者も経験すると思うけど、自分の殻に閉じこもった時期もあった。でも音楽を見つけて、抜け出せた。

width=“100%"

自信を持った現在のケイラは、誰にも止めらない勢いで前に進んでいる。そんな彼女に成功の秘訣を聞いてみた。

応援してくれる人と時間を過ごすこと。数は少なくてもいい。その人たちを大切にして。尊敬できる人をみつけること。親友でもいい。同い年の人でもいい。彼らに積極的に質問しまくって。そして、愛を持って幸せを感じて、失敗を恐れないで。いっぱい恥をかくことになる。何度も、何度も、何度も。新しい国に行った時でも、新しい場所、新しい方法で何かに挑戦する時も。絶対に恥はかく。それを自分の一部にしなければならない。飛び込んで!

私の親友のフィルムメーカーのキーラ・バースキーは同い年なんだけど、素晴らしい映画を作っているの。彼女がくれたアドバイスが「未知を恐れてはいけない」。私たちが知らないことなんて五万とあるんだから。宇宙のことだって…私たちには分からないことばかり。明日何が起きるかもわからない。だから考えすぎてはいけない。準備をしっかりすることは大事だわ、でも次に何が起こるのかなんて誰もわからないんだから不安になって、怖くなるのは普通の感情と知るのは大事。その感情を抱きしめてあげて。

width=“100%"

一見華やかに成功しているケイラだが、必ずしも恵まれた環境で育ったわけではない。今回のインタビューを通して、彼女はひたすら努力をしたから成功したことが分かった。彼女は単純に強いのではなくて、怖くても失敗を恐れずに挑戦し続けているのだ。なんだが勇気がもらえた。

次に何かを始めるときは恥をかくことは当たり前だと思って飛び込もうかな、なんてインタビューが終わった後に素直に思えた。

Kayla Briët

Website

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village