「ヒップホップかなんてどうでもいい」。突如として現れた、日本社会に“バグ”を起こすラッパー三人組

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Ryutaro Izaki unless otherwise stated.

2018.8.10

Share
Tweet

「アメリカのレーベルと契約」「去年はサマソニ、今年はフランスの音楽フェスに出演」など話題の尽きない音楽ユニット、Dos Monos(ドスモノス)。

特に今年5月に日本人として初めてアメリカ・LAのレーベル「Deathbomb Arc」(デスボム・アーク)と契約したことでメディア露出は広がり、音楽メディアやファッションメディアを中心に彼らを取り上げる媒体が多くみられる。今回のインタビューでは「“バグ”として日本のコミュニティに違和を生じさせたい」と話す、彼らの思想に迫ってみた。

width="100%"
左からTAITAN MAN、没、荘子it

ヒップホップにこだわってはいない

荘子it(ソウシット)、TAITAN MAN(タイタン マン)、没(ボツ)からなるDos Monos。共に中高一貫の進学校に通っていた三人は同じ感度で笑い合える気が置けない仲間で、2015年に同ユニットを結成。異彩を放つヒップホップユニットとして語られる彼らだが、ヒップホップという音楽はあくまでも現時点の彼らの表現方法として最適な手段だったにすぎない。「むしろ、ラッパーになったのは、Dos Monosをやるため(厳密には自分のトラックを世に出すため)」だったと、荘子itは語っている。

彼らが現在ラッパーをしているのは、三人から生まれるアウトプットが活かせる音楽がたまたまヒップホップであったからで、結果的にそうなった。それを超す表現が見つかったのなら、すぐにそちらへ移りかねないと言ってのけるほどヒップホップ自体にこだわってはいないのだ。

Dos Monos以外にも、荘子itは他のアーティストのプロデュースや映像・広告音楽の制作、TAITAN MANは他のアーティストの作詞、広告のプランニング、没は音のコラージュなどとメンバーの活動は多岐に渡る。このようにやりたいことを一つに絞らない選択は、もはや特別でない。なかでも企業で広告プランナーを務めるTAITAN MANは、音楽と広告業のどちらもやりたかったと強調する。

width=“100%"

TAITAN MAN:やりたいことを一つに絞る必要は全くないと思っていて。なんか別に大学のときにラップをやっていたけれど、ラップ一本でやっていきたいと思うかといったら、全然そんなことなかった。僕は、社会をぶん殴れる力のある広告を作りたいなって思っていたし、だからどっちが本軸とかもなく両方やっているという感じですね。そしてそれを実現するために、なんとか両方やれる環境を作ったという感じです。

ラッパーの“イケてる売り方”に閉じない

多くのラッパーが踏襲する「イケてる売り方」にとらわれず、ほかのラッパーならしないことにも、楽しんで取り組もうとする姿勢を持つのが彼らだ。荘子itがマスをターゲットにした音楽番組のMCを務めるというのがその一例で、いわゆる「イケてる売り方」に倣わないからこそ生じる違和に彼らはおもしろみを感じ、価値を見出している。

TAITAN MAN:ラッパーのイケてる売れ方って、割ともう決まってたりしていて。キレッキレにブランディングして、イケてるブランドとだけ組んでみたいな、「俺はストリートだぜ、リアルだぜ」っていうラッパーが人気になるって傾向はあると思うんですけど、俺らはその文脈に閉じることをしたくないんです。閉じた瞬間から、絶対それ以上はスケールして(広がって)いかないから。

width=“100%"

売り方以外を見ても、日本のヒップホップ界には閉鎖的な面がある。日本のラッパーはファッションブランドと組んで活動するタイプ、メインストリームに出てタレント化していくタイプ、ギャングスタ・スタイル*1、生活密着型*2、自意識/サブカル系*3などさまざまに分類されるが、Dos Monosはいずれの文脈にも「入れないし、違和感を覚える」という。そこで、アメリカのレーベルと契約した彼らが目指すのは、日本のヒップホップやカルチャーの文脈を内側から壊していくことだ。これが彼らがメディアで言及している、“バグ”となること。

この“バグ”という言葉に込められているのは、パソコンというハード自体を壊すのではなく、内部ソフトのプログラムを微妙に書き換えるコンピュータバグのように、既存の文脈に混乱を起こしたいという遊び心だ。これに関しても意図はなく、自らの表現を追求していたら、そんな存在になっていたと説明するのが正しい。だからこそ「シーンの真ん中にいるみたいだけど、どう考えてもこいつらおかしいよねみたいなことを俺らは目指したいですね」とTAITAN MANは言う。

(*1)暴力や犯罪をテーマとするギャングスタラップと呼ばれるジャンルのラッパー
(*2)日常生活の何気ないことをラップにするラッパー
(*3)オタク・ニコニコ動画文化を含む、アングラ文化出身のラッパー

常に自分を驚かせていたいし、ずれていないとおもしろくない

Dos Monosの活動において通底していることの一つが、「常に自分を驚かせていたい」という価値観。驚きは彼らのインスピレーション源であり、日々の活動への動機だ。ゆえに活動するうえで大切にしているのが、三人から生まれる「ずれ」。それをあえてまとめ上げずに、残すスタイルでいる。結果が予想外に転がっていかないと、自らが楽しめないからだ。そんな彼らだが、文字通り三者三様に「ずらすこと」に対するスタンスが異なる。

荘子it:人一倍つまらない人生への恐怖感が常にあって。ここで思考停止していたらつまらなくなるぞっていう、すごい恐怖があるんですよね、僕には。すごく自由に制作を楽しんでいるというよりは、つまらない人生を送りたくないっていうところに突き動かされているっていうのはある。

自覚的に物事の規範から「ずらすこと」を制作の始点に置くのが荘子it。それには能率主義的なサラリーマンの父親が繰り返してきた、必ず決まった時間に同じものを食べるような「つまらない」日常を送ることへの恐怖心がどこか関係しているという。

「驚けないことに対して何も興奮できない」と語り、自らが刹那的に行動してみて、その結果偶然生まれる「ずれ」を楽しむのがTAITAN MANだ。中学三年のときに家族の事業が破産して家庭が借金地獄に陥ったが、のちに別の事業で成功したことで、世の中は「何でもあり」だと体感した。また没に限っては、生まれ持った感性により無意識的に「ずれ」を生じさせている部分が大きいようだ。

width=“100%"

没:正解みたいなのをあえてはずすこともあれば、基本的に価値観がおかしいからあんまり正解だと思ったものが正解じゃなかったり。やっているときは普通のつもりでいるんですけど、「これ狂ってるな」ってあとから聴き直したらおもしろいこともありますね。

「否定しようとする人」を否定する

何かを否定しようとする人を否定する。これもまた、Dos Monosのメンバーが共有する考え方で、価値観が多様に広がる可能性を否定してしまうような凝り固まった考えに対して異を唱えるものだ。

TAITAN MAN:あらゆる価値観が広がってていいと思うからこそ、何か行動を起こしている人に対してアンチばかり唱える人たちは否定するべきというスタンスは取りたい。

しかし彼らが口を揃えて言うのが、それぞれがただならぬ批判的精神を備えているものの、その態度が露骨に表れるようなアウトプットはよしとしないこと。表現においてはあくまでも垣間見える程度に留めており、歌詞では特に意味のない単語を羅列することもある。だが、むしろそんな部分からのほうが、彼らの無意識に潜在する考えが見て取れるものかもしれない。

width=“100%"

荘子it:あまり意識的にそういった態度を明確化し過ぎると、それがまたある種の類型に収まってしまうので、どちらかというと、ナンセンスなずれやギャグを志向した表現のほうがDos Monosとしては多いです。

具体的/直接的な言葉より、活動全体を通して可能性を否定しようとする人の「思考の凝り」を否定する姿勢を示していこうとする彼ら。同調圧力がはびこる世の中や、結果の予想できるありふれた展開、没個性的なものに対する批判を暗示する歌詞も少なくない。インタビュー中に荘子itが発した「自分にとってのDos Monosは音楽を使った一つのギャグ、あるいはささやかな反抗」という言葉が言い表わしているように、それには言葉遊びから主張が込められたものまであるようだ。

社会に“違和”を生じさせる若者たち

ヒップホップの文脈に限らず、「既存の型」にはまることを重視していると、そこから多様な物事のあり方は生まれていかないだろう。そんなところに、彼らのいう“バグ”として、新たなものが存在しうる余地を意図せずとも作り出そうとしているのがDos Monosだ。そんな「これが正解だ」というものにとらわれない、業界・コミュニティをある意味で混乱させるような小さな動きが重なれば、凝り固まった思考しかできない人々の視野も少しずつ広がっていくのかもしれない。

Dos Monos

Twitter

荘子it(Trackmaker/Rapper)・TAITAN MAN(Rapper)・没(Rapper/Sampler)からなる、3人組HipHopユニット。荘子itの手がける、フリージャズやプログレッシブ ・ロックのエッセンスを現代の感覚で盛り込んだビートの数々と、3MCのズレを強調したグルーヴで、東京の音楽シーンのオルタナティブを担う。結成後の2017年には初の海外ライブをソウルのHenz Club(ヘンツ・クラブ)で成功させ、その後は、SUMMER SONICなどに出演。2018年には、アメリカのレーベルDeathbomb Arc(デスボム・アーク)との契約・フランスのフェスLa Magnifique Society(ラ・マニフィック・ソサエティ)への出演を果たすなど、シームレスに活動を展開している。今秋、満を持して初の音源となる1stアルバムをリリース。

width=“100%"

「Wi-FiガNIGHT SATELLITE」

2018年8月24日(金)21:00〜5:00
@渋谷HARLEM BX CAFE

<GUEST LIVE>
◆MGF
◆KIKUMARU(KANDYTOWN)
◆AAAMYYY
◆DOSMONOS

NEXT Eggs × CINRA presents「exPoP!!!!! volume112」

2018年8月30日(木)Open 18:30 Start 19:00
Entrance Free(without 2 drinks)
@TSUTAYA O-nest

Acts : ayU tokiO/TAMTAM/Dos Monos/中村佳穂/and more!!!!!

詳しくはこちら

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village