給料の翌月一括払いは、もはや“時代遅れ”。50年以上変わらない給与制度を変えようとする25歳の起業家

Text: YUUKI HONDA

Photography: Shiori Kirigaya unless otherwise stated.

2018.6.8

Share
Tweet

働き方改革の名の下、少しずつ変わり始めた日本の労働環境だが、給与制度を変えようという声はあまり聞かれない。現行制度に誰もが親しんでいるからか、不満の声もあまり上がっていないのだろう。

この状況にあえて新しい選択肢をもたらそうとしているのが、給与即日払いサービス「Payme(ペイミー)」を運営する、株式会社ペイミーの後藤 道輝(ごとう みちてる)さん(25歳)だ。

Paymeリリースのきっかけは、「いまの給与制度が時代遅れになっていると思うから」。戦中から戦後にかけて確立された現行制度の“遅れ”とは何なのか。

メルカリ、CAMPFIRE、DeNAなど、ビジネスとして成功を収めている名だたるITスタートアップ企業で、いずれも戦略投資やマーケティングなど、資本に関わる事業に参画してきた彼が考える、「給料の自由化」について聞いた。

width="100%"

「給料の自由化やってます」。50年以上変わらない制度に抱いた違和感って?

Paymeは3ステップ(ログイン・申請額決定・申請)で、いつでもどこでも手軽に給料を受け取ることを可能にした、いわば給料の即日払いサービス。最短で申請したその日に給料を受け取ることができる。上限は、申請時までに稼いだ給料の7割だ。

このサービスの土台には、後藤さんが学生時代に抱いたある疑問ーなぜ月に給料日は一回で、月末締め翌月払いが基本なのかーがある。学生であれば誰もが経験するような出来事が、この違和感を持つきっかけになった。

width="100%"

お金がなくてお世話になっていた人の結婚式に出席できなかったり、サークルの合宿に行けなかったりしたことがあったのですが、このとき思ったんです。「今月働いた分のお金を受け取るのに、なんで翌月末まで待たなくちゃいけないのか」と。そういうありふれた出来事がきっかけですが、こういった経験は、比較的お金に余裕のない若者たちには身近だと思います。

確かに、給料日を首を長くして、あるいは胃をキリキリとさせながら待ち望んだ経験は、誰にでもあるのではないだろうか。はたまた、急な出費に慌てて親や友人にお金を借り、なんとか事なきを得た経験はないだろうか。

アメリカのような先進国では、給与は当月払いがスタンダードになっています。日本のような翌月払いのスタイルは時代にマッチしていないのではないでしょうか。

こうした事実を知ると不思議なもので、月に一回の給料日や月末締め翌月払いという“当たり前”は、結構な不自由を被雇用者に強制している気がする。

それにカードローンや消費者金融は借金をするものです。そういうことに抵抗がある人は多いのではないでしょうか。だからいらないものをフリマアプリなどで売って現金化したり、ECサイトのツケ払いなども人気になっていたりといろんな選択肢が出てきました。Paymeもその一環で、そもそも一番身近な収入である給料の受け取り方を変えてしまおう、50年以上変わらない制度を変えようと考えたんです。

「お金がないこと」で機会を損失する若者をなくしたい

また、後藤さんには「若者がお金がないという理由で夢を諦めざるをえない現状を変えたい」という思いもあるという。

width=“100%"

高校生や大学生、新社会人といった地位も名声もない人たちがチャンスをつかむことができる世界を目指しています。

例えば同じ素質があって同じ志望校を目指す高校生が2人いたとして、大学受験のために塾に通えるか通えないかで合否が分かれたとします。その差分って、将来のことを考えたらすごく大きいですよね。もちろんこれは例えですが、現実にもこういう小さな差で将来が大きく変わってしまうことはよくあると思うんです。そういった機会損失をなくしていければと思ったんです。

後藤さんの最終的な目標は、「奨学金や退職金のサービスを提供する、若者世代向けの新しい銀行の形を確立すること」。Paymeはあくまで始まりに過ぎず、「今は信頼と実績、事業拡大のための資金を蓄える期間で、ゆくゆくは上場して銀行業の免許を取る」というビジョンを描いている。

ベンチャーから大企業までを渡り歩き生まれたPaymeの構想

看護師の母親と消防士の父親に育てられた影響で、将来は人を助ける仕事がしたいと、大学生のときは国際協力について学んでいた後藤さん。しかしインドネシアのある企業でインターンをしていたときに、価値観を大きく変える出来事が起こった。

width=“100%"

個人や企業が無料で出品できるECサイト事業を行う現地の企業が、ソフトバンクから100億円を調達したんです。ネット通販のできるプラットフォームがなかったインドネシアでは画期的でした。これを知ったときに、「開発地域の現場で何かするよりも、社会的にインパクトを与えるサービスをリリースしたほうが多くの人の助けになるんじゃないか?」と思ったんです。

その近道として考えたのが、起業家や投資家になることだった。すぐに行動することにした後藤さんは、国際協力の領域を離れて、あるベンチャーキャピタルにインターンとして参加する。

その後、国内最大級のフリマアプリを運営する株式会社メルカリと、クラウドファンディングサービスを運営する株式会社CAMPFIREに出向という形で半年ずつ勤務したのち、多彩なサービスを展開するDeNAに入社。昨年復活し話題になったファッションメディア「MERY」にも関わって働きつつ、新規事業を起こすためにFintech(フィンテック)*1への知識を深めた。結果的にこれがPaymeの構想につながる。

BtoB(法人から法人)やCtoC(消費者から消費者)のFintechではなく、BtoC(法人から消費者)のFintechにすごくワクワクして、Paymeの構想もその頃に生まれました。「一番身近な収入である給料の仕組みを変えたら面白いんじゃないか?」と。それで昨年7月に起業し、9月にPaymeをローンチしました。

(*1)「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語、「Finance Technology」の略語。明確な定義は存在しないが、主に既存の金融組織が提供していない革新的な金融サービスをさす

リリースからたった半年で導入企業が100社を超えた理由

Paymeは今年5月までに導入企業が100社を超え、利用者数は15,000人を突破した。この急速な拡大の要因を、企業と従業員の双方に相応のメリットを提供できているからだと後藤さんは言う。

企業側のメリットは、導入と運用が無料なうえに、求人応募の増加と定着率の向上が期待できることです。各求人媒体の検索ワードの上位には必ず「日払い」が挙がるそうで、同じ労働条件でも「日払い」が可能かそうでないかで、求人応募の数に3倍以上の開きが出るという調査結果があります。

またPaymeが導入されていると、働いた分の給与がこまめに入金される状態を作ることができます。そうすると小さなモチベーションで仕事が続けやすく、結果定着率も上がるんです。

width=“100%"

従業員側のメリットは、申請額の3〜6%に相当する手数料を払えば、その日までに稼いだ給料の7割までをいつでも簡単に受け取れる点ですね。

現在申請額の平均は3万円ほど。急な入り用に際して、「あ、Payme使えばいいじゃん」というぐらいのカジュアルな使い方が多いのだろう。

「その日暮らしを助長している」という批判を受けることも多いのですが、私たちは将来価値の高い人がお金を理由に将来を諦めてほしくないだけなんです。急な出費が発生したときに使えるお金がある。その状況を作るだけで、将来は大きく変わっていくと思うんです。

後藤さんに挙げてもらったメリットのほかにも、「前払いの申請で社員の業務が増えるのは嫌だな」という企業側と、「前払いを頼むのは上司の仕事を増やして悪いな」という従業員側の双方のツボをうまく突いたことが、Payme躍進を支えているのではないだろうか。

width=“100%"

先に書いたように、Paymeは始まりにすぎない。「東京マラソンの抽選に当たって、本番のための準備をしている感じですかね」と後藤さん。

確かに、日本は金融業に対する規制や原則が事細かに決められており、そう簡単には開業できない。事業を行うのに必要な資格を取得するだけでも数年はかかる。

しかし、現在までのキャリアでも既存のルールにとらわれないやり方で、多くの成果を出してきた後藤さんである。水面下で着々と進んでいるであろう新サービスがお披露目されるのも、そう遠い日ではないかもしれない。

後藤道輝(Michiteru Goto)

TwitterFacebook

width=“100%"

Payme

Website

企業の勤怠データと連携し、実労働時間から給与計算を行い即日払いを実現する。シンプルでわかりやすいUI・UXを実現させ、飲食チェーン・人材派遣・小売・コールセンター、アミューズメント、物流など100社以上と契約。サービス労働力が不足する企業や20代を中心とした若い世代の従業員から支持を集めている。目指すは給与の自由化、そして資金の偏りによる機会損失のない世界の創造。

width=“100%"

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village