純粋な無知が生んだ「うつ病」を受け入れない世界

Text: Seina Ikawa

2016.10.7

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「うつ病で朝起きれない」と友人から言われたとき、あなたはどのように感じるだろうか。「甘えている」「弱い人」「気の持ちよう」など、うつ病を患う人に対して、ネガティブなイメージを抱いたことはないだろうか。

職業は、コメディアン、作家、メンタルヘルスアクティビスト

コメディアン、作家、そして「メンタルヘルスアクティビスト」である22歳のケビン・ブリール。聞き慣れない職業「メンタルヘルスアクティビスト」とは、精神疾患に苦しむ人たちの権利、治療、そして、精神疾患に苦しむ人たちに対して、一般の人たちが持つ考え方を向上させようと闘う人たちのことだ。

高校時代、彼はバスケットボールチームのキャプテンを務め、演劇と国語の年間優秀生徒で、人付き合いもよかったという。他人が抱くケビンの「イメージ」とは対極的に、実は彼はうつ病と闘うティーンエイジャーのひとりだった。コメディアンがやや引っ込み思案傾向にあり、社交的に交際することを常には望まず、彼らのコメディ自体がセルフメディケーション的な役割を持つという指摘もあるが、一般的には、コメディアンといえば「明るい」「楽しい」といったイメージで、うつ病とは相反するような印象があるのではないだろうか。ケビンは現在、うつ病、そしてうつ病に対する社会的不名誉、無関心、無知、不寛容と闘っている。

内なる闘い以上に恐ろしいこと

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彼は以前、「うつ病をわずらうコメディアンの告白」というテーマで、テッド・トークス(TED talks)に登壇した。トークの中で、ケビンが定義した本当のうつ病とは「人生のすべてがうまくいっているときに悲しくなること」。うつ病は、なにかがうまくいかないことによって、一時的に悲しくなることとは違う。彼が最も恐れることは、うつ病に対して自らが闘うこと(内なる闘い)ではなく、他人が抱くうつ病に対するネガティブなイメージ。このスティグマによって、うつ病を患う人たちはSOSを出しづらくなってしまうという。ケビンはトークの最後で訴えた。

うつでも大丈夫。私たちは人間ですから、悶えたり、苦しんだりします。血が出て泣くこともあります。もし真の強さとは、決して弱さを見せないことと思われていたら、間違っていると伝えたい。間違っています。反対なんですから。私たちは人間です。問題を抱えています。完璧な人なんていないそれで良いんです。無知を克服しましょう。不寛容を止めて、不名誉も払拭しましょう。そして、沈黙を打ち破るんです。タブーを取り払いましょう。真実を見て話し合いを始めましょう。なぜなら1人で戦っている問題の唯一の解決方法とは、一緒になって戦うこと。皆で結束するんです」

うつ病という話題は、ソーシャルメディアやニュースでは「暗い」と言って避けられる傾向にある。また、「骨折」といった身体的症状と比べると、不寛容になりがちな話題でもある。しかし、世界のどこかでは30秒にひとりがうつ病で命を絶っている。うつ病という話題を真剣に議論するときが来ているのではないだろうか。

アナ雪の声優がうつ病に対してオープンになったとき

映画「アナと雪の女王」で、アナ役の声優も務めた女優のクリスティン・ベル。彼女もまた、うつ病を経験したひとりだ。コメディアンのケビンが「真実を見て話し合いを始めましょう」と話したように、彼女もまた「20%近くのアメリカの成人が、一生のうちに一度はなんらかの精神疾患を患います。私たちは、なぜそのことについて議論していないのでしょうか」と、うつ病について話し合うことの重要性を語る

さらに、「精神疾患と闘うことは、『弱い』ことではない」とも言い切る風邪だと言えば「お医者さんに診てもらえば?」とアドバイスできる私たちは、精神疾患を患う人たちに対しては同じことが言えなくなりがちだ。私たちは、うつ病に対してネガティブなレッテルを無意識に貼り付けている可能性がある。ベルや、ケビンの言葉を重く受け止めなければならないだろう。

30秒にひとりがうつ病で自殺する世界で

日本でうつ病を患う人は年々増加傾向にあり、2014年にはうつ病を含む気分障害患者数は約111.6万人となった。しかし、2014年に製薬会社のルンドベック・ジャパン株式会社が行った調査によれば、日本では同僚がうつ病になっていることを知っても「何もしない」と答えた人が40%にものぼったという。ケビンは「うつ病をわずらうコメディアンの告白」の中で、私たちがうつ病から逃げてしまう可能性を以下のように述べている。

私たちの世の中では、腕の骨を骨折すれば、ギプスにメッセージをもらえますが、うつだと告白すれば皆が逃げていきます。これが悪いイメージです。私たちは身体の病気には非常に寛容ですが、精神となると違います。全くの無知です。純粋な無知こそが、うつや心の病気を受け入れない世界を作っています

ケビンやベルなどの話をきっかけに、うつ病に対する理解を深め、うつ病を含めた精神疾患に対する偏見を一人ひとりがなくしていかねばならないだろう。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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