ベルリン発。日本人に必要な「もったいない」を行動に移せるアプリ

Text: Ruka Yamano

Photography: ©MealSaver unless otherwise stated.

2017.2.3

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今年も節分の季節がやってきた。スーパーやコンビニで売れ残った大量の恵方巻が廃棄される写真がSNS上に流れ、衝撃を与えたのは去年だっただろうか。そう、楽しいイベントの裏側では、売り上げを見越して大量に発注された商品は、イベントが過ぎればただの廃棄物として捨てられるという現実を忘れてはいけない。これは恵方巻きだけではなく、クリスマスのケーキやバレンタインのチョコレートなどにも言えるだろう。そもそも、日本では年間どれくらいの食料が廃棄されているのだろうか。

政府広報によると、日本では年間1900万トン、民間の調査では2700万トンの食品廃棄物が出ており、世界でも1位、2位を争うほど多い。その内、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロスが500〜900万トンとの報告もあり、日本人がいかに賞味期限に敏感なのかが理解できる。

パン屋、カフェ、レストランといったフード業界で勤務してる人なら、まだ食べられる食品、つまり極端な話ではあるが、賞味期限が10分ほど過ぎてしまった食品を廃棄し「もったいない」と感じたことは何度もあるだろう。賞味期限が過ぎても食べられない訳ではないという事実は知れ渡っているが、私たちはこの期限に振り回された結果、世界ワーストクラス級の食品廃棄物を出してしまっている。

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Photo by Ruka Yamano

ゼロ・ウェイストを目指す話題のアプリ

毎年約1800万トンの食品廃棄物を出しているドイツ。さらに驚くべきことに、毎秒約300キロのゴミが不必要に捨てられている。日本と同じく、ドイツでもこのような問題に直面しているのだ。しかし、この悲惨な食品廃棄物を救う話題のアプリがあるという。

この現状に痺れを切らせて立ち上がったのが、首都ベルリンに拠点を置くスタートアップ企業「EatUp GmbH(有限会社EatUp)」だ。アプリ「MealSaver」を開発し、カフェやレストランで売れ残ったサンドウィッチやケーキなどを、お手頃な値段で買えるサービスを提供。今、エココンシャスなベルリナー(ベルリンに住む人々)の間で話題になっている。

今回はベルリン在住・EatUp Gmbhに勤める坂口レオさんに話を伺った。日本人とポーランド人の両親を持ち、英語、日本語、ドイツ語、ポーランド語はもちろん、人工言語・エスペランド語をも話す才能の持ち主。また東京大学やUCバークレーにも在籍経験があり、音楽活動も行う87年生まれのミレニアル世代。多様なバックグランドを持つ彼の視点から、日本の悲惨な食品廃棄事情はどう映るのだろうか。

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Photo by Ruka Yamano

ドイツではすでに、食品廃棄をなくそうというイニシアティブを握っていますが、ただ、今までレストランなどで調理された食品をダイレクトに”救う(save)”ような手段はありませんでした。そこで開発されたのが、MealSaverです。

そう語り始めるレオさん。環境問題には一際敏感なドイツ・ベルリンで立ち上がったMealSaver。世界中から若者が集まり、まだ誰も見たことのない新たなカルチャーが続々と生まれる地ノイケルンにオフィスを構えるEatUp Gmbhが運営している。なんと、今年はベルリン以外の大都市へも拡大していく予定だそうだ。一体どのようなビジョンを掲げているのか。

どんなユーザーにも、非常に早く簡単に、廃棄されてしまう食品を救う機会を与えるのがMealSaverのビジョンですね。また日々の生活に忙しすぎて、食品廃棄について深く考えたことのない人々や、知らないうちに消費し過ぎてしまってる人々にも、この問題について考えてもらうことが必要だと思ってます。そしてMealSaverの長期的な目的は、もちろん食品廃棄量を大幅に減らすこと。当然それまでには長い道のりを歩まないといけませんが、ちょうど今初めの一歩を踏み出したところ。ベルリン以外にも、ハンブルグ、そしてノルトライン=ヴェストファーレン州(ドイツの16ある連邦州のうちのひとつ)といった大きな街に、サービスを提供することになりました。

MealSaverを通じ、まだ食べられる食品を廃棄から救う機会をユーザーに与える。1人1人の力は微々たるものだが、その力が集まり世界に広がれば、この問題も解決へと向かうだろう。

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MealSaverには色々なアドバンテージがありますが、ただ様々な料理を提供するだけでなく、ユーザーは1人前を非常に安い価格で購入でき、そしていつもは買えないような料理も味わうことができるのが、強みのひとつですね。さらにこのアプリは誰もが早く簡単に操作でき、ユーザビリティーも高い仕様になっているのが特徴で、すぐに英語版も登場する予定です。

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金額と受け取り時間が記載されており、料金はPayPalで先払い、時間内にお店へ直行しお目当てのごはんやスウィーツを受け取る。このシンプルな操作も、人気の理由と言えるだろう。料金はひとつ平均3€(約350円)ほど。売価より半分以下の値段で買える。

寿司やパン、ヴィーガン対応のブッフェまで。このようなバラエティーに富んだオプションは、様々なライフスタイルを送るすべてのユーザーのためにあり、強みのひとつでもあります。あまりの多さに、みなさん驚かされるでしょうね。

GPSを元に自分の現在地から近い順に、カフェやレストランが表示される。パン屋やケーキ屋はもちろん、中東、中華、タイ料理といった世界各国のあらゆるお店がリストアップされ、この街が様々な人種から成り立っているのがわかる。またベルリンらしく、ベジタリアンやヴィーガンのお店も表示され、多様なライフスタイルに対応しているのも特徴だ。

食品を受け取る際に使用しているのは、環境に悪影響を与えない生分解性ボックス。環境にはとことん配慮しています。

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色々な強みを挙げましたが、1番はやっぱり食品を廃棄から救えることでしょう!

環境にもユーザビリティーにもとことん配慮したMealSaver。誰もが待ち望んだこのアプリは、今後どのように展開していくのだろうか。

今年ドイツの主な大都市にサービスを提供していく予定で、ホテルや大手チェーン店にも、私たちのコンセプトを広げていくつもりです。すでにいくつかのホテルに協力してもらったのですが、かなり手応えのあるものでした。長い目で見て、世界進出できたら良いなと思ってますね。

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レオさんの目から日本の食品廃棄の状況はどう映るのか、最後にこう綴ってくれた。

日本もドイツも、どちらも環境保護意識が高い。ここドイツは、レストランのオーナーからの信頼や、提供する料理の良心的な価格が理由で、MealSaverが社会に受け入れられてるんだと思います。なので、このようなアプリは同じように日本でも機能するのではないかと。ただ日本の文化はユニークで、それによって大量のゴミ問題を抱えてしまってますね。例えば食材の新鮮さ、形の綺麗さは、日本では他の文化よりも非常に重要な役割を占めています。そのような文化を、西洋のような少し形が悪くても気にしない考え方に、一歩一歩、少しずつ近づいていくことが、もしかすると大きな変化へと繋がっていくかもしれません。

フレッシュで安い。日本にも必要なアプリ

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実は、筆者は、今回レオさんにお話を聞く前にMealSaverを体験した。フレッシュなラップサンドやスムージーを提供している「FRESH Vitamins & More」とサンドウィッチやヴィーガンケーキが売りの「Nuni’s – Edel & Kühn」。MealSaverでこの2店舗を見つけ、廃棄食品を購入してみたが、どれも廃棄予定だったとは全く思えないほど新鮮だった。しかも価格はこのボリュームでたったの6.80€(約830円)とお手頃。

日本では考えられないかもしれないが、ドイツでは売れ残ったパンを翌日安い値段で売るなど、生産者だけではなく、消費者も食品廃棄をなくすことに関心が強い。

商品の新鮮さを求め過ぎて、いつの間にか食品廃棄量ワースト1の国になってしまった日本。私たち日本人の食に対する意識を変え、食品廃棄を救う機会が与えてくれるのは、ドイツの小さな街で始まったアプリMealSaverなのかもしれない。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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