韓国とカナダ。ふたつの国の文化に翻弄される23歳の彼女の“等身大の葛藤”をスクリーンへ

2017.5.12

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2014年の夏に韓国を10年ぶりに訪れた、カナダのトロントに住む23歳の韓国系カナダ人Jasper Lim(ジャスパー・リム)。彼女がそこで感じたのはとてつもないカルチャーショックと、「どこかに忘れてきたようなノスタルジア」だった。それはトロントへ帰るのを延期してしまったほど強く複雑な感情で、俳優として活動する彼女はその気持ちを映画のなかで表現しようと決意する。しかし、映画を5年後くらいに公開できればいいと気長に考えていたところ、2016年に再び韓国を訪れたことで彼女の考えは変わってしまう。

Photo by @nosittingonthegrass
Photography: @nosittingonthegrass

急速に「西洋化」してしまった韓国の街

2016年の夏、ジャスパーは再び訪れた韓国で、その数年の間に街が西洋化して姿を変えてしまったのを目の当たりにし、衝撃を受ける。そして、このままでは今までの世代が見てきた韓国の姿が見られなくなってしまうと思い、彼女は時間を置くことなく映画の制作準備に取りかかることにした。それには長い歴史のなかの「現代」という時代を映画に記録し、自分の子供や孫の目に見えるものとして残したいという思いもあるという。

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Photography: @nosittingonthegrass

映画のテーマとなった「文化的アイデンティティ・クライシス」

韓国を訪れたときにジャスパーが感じた複雑な感情、そして母国カナダに戻ったときに感じたという「疎外感」。これは、「文化的アイデンティティ・クライシス」と呼ぶべきものだ。自分の文化的アイデンティティがどこにあるのか、わからなくなる状態をいう。韓国系カナダ人の彼女の場合、韓国とカナダのどちらにも完全に属せていないと感じてしまったと考えられる。

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Photography: @nosittingonthegrass

このトピックは彼女と同じ移民2世の友人たちにとって、そして1988年にトロントに来た移民1世の彼女の両親にとっても共感できるものだったという。また、西洋の国に住む東洋人に関しても同じことが言えるかもしれない。多文化の街カナダのトロントに住んでいても、自分たちを西洋の国にいる異質な存在だと感じることがあるようだ。

ジャスパーの実体験に基づいた「半自伝的なシナリオ」

ジャスパーが脚本・監督・主演を務めるのが、『No Sitting On The Grass(直訳:草の上には座らない)』と名付けられた長編映画。彼女がこれの共同制作者に選んだのは、才能溢れる3人の若者だ。

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映画のサウンドトラックの作曲を担当するDavid Tanton(デイヴィッド・タントン)

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「ソウルの街のサウンド」の録音を担当するMichael Pugacewicz(マイケル・プガチェッリ)

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映画の撮影を担当するMax F Sims(マックス・F・シムズ)

ストーリーは、カナダで生まれた韓国系の女性が、ある暑い夏に「故郷」と呼べる新たな場所を探しに韓国・ソウルを訪れるというもの。女性がそこで感じたのは「孤独」で、永遠に自分との“親密性”を探し続けてしまう。そして自分のルーツやアイデンティティを問い直し、民族の「ディアスポラ(離散)」のもたらした結果のなかを悪戦苦闘しながら進んでいく。彼女は2つの文化をまたぎながら、現実、夢、悪夢、空想を行ったり来たりするのだ。

ソウルでの映画の撮影に向けて

韓国の首都ソウルでの撮影は、今年の6月から7月に予定されている。ジャスパーはそれを実現するのに必要な資金を、クラウドファンディングを通じて集めている。1カナダドル(約83円、2017年5月12日現在)という少額から援助できるため、少しでも興味があれば協力してみて欲しい。

援助した金額に応じて、サウンドトラックのカセットテープや、ジャスパー手作りのソウルガイドブックなどカルチャー要素の強いグッズを手に入れられる。そのなかでも注目なのが、100カナダドルの援助+配送料でもらえる映画のオリジナルTシャツだ。彼女はLiquorice Lims(リコリス・リムズ)というセルフデザインのTシャツブランドを持っている。

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Liquorice LimsのTシャツ
Photo by @nosittingonthegrass

彼女がクラウドファンディングに使用しているウェブサイト「Indiegogo」は、目標額を達成しなくても集まった資金をプロジェクト主が受け取れる仕組みになっており、提供された資金はすべてジャスパーらに届けられる。

ジャスパーの映画に期待できること

グローバル化によりふたつ以上の「文化的アイデンティティ」を持つ人々は、日本でも確実に増えてきているが、そんな人々が経験するであろう「文化的アイデンティティ・クライシス」を理解するのは、当事者以外にとって簡単ではないかもしれない。

ジャスパーの映画が彼女の思いを表現するものに留まらず、人々が「文化的アイデンティティ」の問題を理解するきっかけとなり、また複数のアイデンティティを持つことの素晴らしさを伝える作品となることを期待したい。

『No Sitting On The Grass Feature Film』

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彼女の作品『No Sitting On The Grass Feature Film』を国際映画祭で見たい方は、ぜひクラウドファンディングに協力を。期限は5月末だ。クラウドファンディングやプロジェクトの詳細はこちら

Jasper Lim

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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