なぜ「ゲイ」が題材はタブーなのか。ある若手監督が「愛の普遍性を描いた映画」で日本人に訴えたいこと

2017.7.5

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「ゲイやレズビアンなどのセクシュアルマイノリティをテーマにした映画」と聞いて、どんなものを思い浮かべるだろうか?“セクシュアルマイノリティの人は性に対して開放的”という偏見は現在でも残っており、“アブノーマルなセックスシーン”が描かれているものばかりだと思う人も、残念ながらいるかもしれない。

だが、セクシュアルマイノリティを取り巻く多様なストーリー作品やドキュメンタリーを公開し、偏見をも払拭する映画祭が7月8日から開かれる。より多くのセクシュアリティを包括したいという思いを込められ、「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」から名前を変更し、1年前に始まった「レインボー・リール東京」だ。

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それに合わせてBe inspired!では、本イベントの見所のひとつである短編映画のコンペティションに参加する、注目の若手映画監督たちにインタビューを行なった。

第1段は、今話題のバンドnever young beachのMV等を制作してきたシガヤダイスケ監督。レインボー・リール東京にはセクシュアリティを越えた「人を愛することの普遍性」を描いた卒業制作『春みたいだ』で入選している。

シガヤ ダイスケ監督(Daisuke Shigaya)

Photo by シガヤダイスケ

【プロフィール】
1994年 神奈川県横浜市出身/東京都在住
日本大学芸術学部映画学科に入学し、短編映画を中心にnever young beach等MVを多数制作。
現在、フリーランスの映像ディレクターの傍ら、初の長編作品『赤い目(仮)』を脚本執筆中。

【作品歴】
『ウォーアイニー』(2015年製作)
・商店街映画祭 入選

『春みたいだ』(2016年製作)
・第26回 レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜 入選

・第29回 東京学生映画祭 入選

 

第26回 レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜入選作品『春みたいだ』

※動画が見られない方はこちら

【あらすじ】すべての恋人たちに春は訪れるのか…
 
春がやってくるずっと前の話。恋人同士のシンとカズ。ふたりはある日、ささいな事でケンカをし、カズはシンの元を去り、元恋人のタカシに連絡を取る。しかし、タカシには妻がいた。相手を想う気持ちが、自分と相手を苦しめていく…

 
ー映画を撮り始めたきっかけを教えてください。

小さい頃から映画が好きでした。大の映画好きだった祖父に小学低学年時に半ば強制的に『エイリアン』や『仁義なき戦い』などを見せられていて、そこから映画にのめり込んでいった気がします。

現実的に映画を撮りたいと思ったのは、高校時代です。当時、親父が持っていたハンディカムで漠然と高校の同級生を撮影していました。あるときポスターに誘われて園子温監督の『ヒミズ』を映画館に観に行き、見終わったあと映画館でなんだか涙が止まらなくなって、映画でここまで泣いたことはなかったので不思議な気持ちになりました。そして映画館から自宅に帰るまでの間に「そうだ、俺はこれがやりたい!!」と思い、その後、日芸映画学科に入り、映画を撮り始めました。

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ーセクシュアルマイノリティをトピックにした『春みたいだ』を撮ろうと思ったきっかけは何ですか?

脚本を書く前に山田詠美さんの小説 『僕は勉強ができない』を読んで作中の「○をつけよ」という章に感銘を受けました。

すべてに丸をつけよ。とりあえずは、そこから始めるのだ。そこからやがて生まれてくる沢山のばつを、ぼくは、ゆっくり選びとって行くのだ。

これについての僕なりの解釈ですが、「あらゆる物事に対して、無責任な立場から裁くことはできない。だからひとまず、自分の中ですべての物事に対して 丸をつけ、一度ゆっくりと考えて、その後、もし自分の中で間違っている・意に反すると判断したのならば、ばつをつけてゆけ」という話だと思います。

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この物語を読んだときに、まさしくセクシャルマイノリティの現状じゃないのかなと思いました。当事者じゃない人が無責任な立場から、はじめから、少しも理解(丸をつける)しようともしないで、批判(ばつをつける)をする。

そうじゃなくて、ひとまず丸をつけて(理解しようとして)、それでも理解ができないというのなら、仕方ない、ばつ印をつければいいと思う。まず理解しようとすることが重要で、それをしなければ物事を批判することはできないのです。

『春みたいだ』を撮る前に、ある人から「ゲイが題材なら一緒にやらないよ」と言われました。その人がどのような気持ちで言ったのか詳しくは分かりませんが、その言葉がスッと出てくることが怖いなと感じました。僕自身も、その人も異性愛者として生まれただけ、ただそれだけです。そのようなこともあり、自分を見つめ直すという意味でもセクシュアルマイノリティを扱った作品を撮ろうと思いました。こんなことが『春みたいだ』を撮る前にきっかけとしてあった気がします。

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ー同作を撮るうえで、どのようにセクシュアルマイノリティの現状をリサーチしましたか?

ゲイの友人に色々と話を聞いたりゲイバーに通ったりはしました。初めは、セクシュアルマイノリティじゃない僕がこの作品を描くには沢山のリサーチが必要だと意気込んでいたのですが、話を聞いていくうちに、リサーチはもちろん必要なことだけど、それよりもっと人を愛するという根本的なことの方が大切だと思い、自分自身の恋愛を振り返り脚本を書きました。

僕自身の恋愛の話をセクシュアルマイノリティという設定にのせ映画を撮り、人に観てもらい、そして一人でも多くの方に共感できる部分を提示できれば、セクシュアリティの垣根を超えられる作品が撮れるんじゃないかなと考えていました。

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ー同作を通して伝えたいこと、考えて欲しいことは?

決してセクシュアルマイノリティの現状だけを描きたかったのではありません。愛してるはずなのに傷つけてしまったり、散々傷つけたあとに相手を恋しく思ったり、そんな正体不明の揺れ動き続ける人間の普遍的な気持ちを描きたかったような気がします。

拙い作品ですが、沢山の方に観ていただき、おこがましいですが、ひとまず、みなさん自身がセクシュアルマイノリティに対してもそうですし、他の物事に対しても「まず○をつけて」いただだきたいです。

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ー映画は社会の問題に対して何ができると思いますか?

問題を解決できるかどうかは分かりませんが、僕が思うのは、問題に対して新しい見解を提示はできると思っています。僕自身、1つの問題に対して、答えは出せないかもしれないけど、観客の方々が様々な見え方、新しい見え方を受け取れる作品作りに努めたいと日々思っています。

映画で提示された物事に対する新しい見方により、観客の方々の心が少しでも動き、社会の問題が解決に向かえば素敵だなあと思います。

 
ー卒業制作がレインボー・リール・コンペティションにノミネートされてどうですか?

撮影前からレインボー・リール・コンペティションに入選したいという思いがあったので、素直に嬉しいですし、卒業制作ということもあってより観客の方の反応が気になります。自信はありますが、観客の方々の反応が少し怖いというのが本音です。

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彼の言葉を借りれば、日本ではセクシュアルマイノリティの人々を理解しようとせず、ただ非難する人がいるのが現状だ。そんな人の持つ先入観をなくすにはどうしたらいいだろうか。

レインボー・リールで公開される作品の監督たちが込めた視点や見解を通して、セクシュアルマイノリティの人々が生んだ文化や人間の感情の普遍性などを感じることができれば、今まで知らなかった自分とセクシュアリティの異なる人について理解することにつながるだろう。

インタビュー企画の第2段は、尊厳死をテーマにした作品『尊く厳かな死』で話題となった中川駿監督。今回のレインボー・リール東京では、学校というコミュニティで起きるセクシュアルマイノリティの問題を描いた『カランコエの花』で入賞した。こちらも合わせて読んで欲しい。

第26回レインボー・リール〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜

主催:レインボー・リール東京運営委員会、NPO法人レインボー・リール東京

開催期間:2017年7月8日(土)〜14日(金)@シネマート新宿

2017年7月14日(金)〜17日(月・祝)@スパイラルホール(スパイラル3F)

今回インタビューを行なった監督の作品が鑑賞できる「レインボー・リール・コンペティション 2017」は、スパイラルホールにて7/17(月・祝)16時から開催されます。

上映される短編映画のなかから観客の皆さんの投票でグランプリが決まります。ぜひご参加ください。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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